デューク・ドノバンの城
デューク・ドノバンの城 1
そうだ美味しいケーキと料理を作ろうと。城主の
ゴブリン達は主の期待に応え美味しいケーキと料理を作った。
しかし。娘の部屋の扉は開く事が無かったそうだ。
◇◇◇
参った事にその日はいきなり天気が乱れた。快晴の空がいきなり様変わりしてどしゃ降りへと変貌を遂げた。まるで泣きじゃくる駄々っ子のようだと感じつつ二人の小さい影が雨の中を駆けて行く。
「ふう……雨とはついていないね」
一人は光を溶かしたような白髪に夜空より透き通った闇色の双眸の、まだ八歳ぐらいの少年だ。彼の名前は『ルーティス・アブサラスト』。旅の白魔導士だ。
「いやホントだぜルゥ。いきなり雨とかちょっと困るぜ」
そして彼の事を短くした愛称で呼ぶもう一人は。晴れ渡る空のように青い髪に
そして二人は親友にして悪友同士。たまにこうして旅先で知り合う事がままあった。
「本当に困ったね……レイ、どこかで雨宿りしたいよね」
「あぁ。このままじゃ風邪引きそうだしな……」
二人共に、雨の空を困ったように見上げた。今回も街道沿いのカフェで再会した二人はそのまま冒険し始めたが……途中から雨に撒かれて困っている、という訳だ。
「……ん? なぁルゥ。あれ城じゃねぇか?」
ふとレイが雨の帳の向こうを指差す。
「どれ?」
雨粒を拭いながら尋ねるルーティスに、
「ほらほら、あの山沿いの!」
雨粒が目に入り片目だけ閉じたレイが何度も指差す。
レイが指差すその先に。確かに結構大きい城が建っていた。山の麓に確かにひっそりと、建っていたのだ。
「よし。行ってみよう!!」
「よしきた!!」
二人はそこを目指して、駆けていく。雨脚は更に強くなっていった……。
◇◇◇
「なんだ? 誰もいないのか?」
何度も何度も呼び掛けても門が閉まったままだったので。こっそり壁を登って入ったレイ君の第一声はこれだった。
「……でも生活感はあるよ?」
もう無茶して……とルーティスはレイを嗜めつつマントを絞っていた。今現在、二人の現在地は巨大な城門を乗り越え観賞用の庭園にあるこれまた巨大な正門を中に入ったところ。回廊状の建築にまるで闘技場のような中庭が広がる場所を一望できるところだ。外観に反して小ぢんまりとした造りみたいだ。もっともこの造りは増援が展開しやすい造りだから、ちょっと厄介でもある。しかし……それにも関わらず衛兵や巡回の姿も見えない。雨とはいえ見張りの兵士もいないのはちょっと気にかかるものだ。
「……とりあえずレイ、こっちに来なよ。水分を飛ばす為に浄化魔法かけてあげるから」
まぁでもいいかと。ルーティス君はレイの服に魔法を行使していた。
「ありがとー。……でも何でいないのかな?」
「うーん……」
首を傾げる二人。
ふとその時に、奥から何か歩いてくる雰囲気を感じた。
「レイ! 隠れて!」
小声で柱の陰まで導くルーティスに、
「おうよ!」
レイも従った。
隠れた後に二人共ひょっこりと片方だけ顔を出して辺りを窺う。
「あれって……
ひょっこりとルーティスが見つめるその先には、緑がかった肌にエルフのように尖った耳の小さな奴らがいた。
「違いねぇ。ゴブリンだぜ」
レイも断言する。なるほど、どうやらここは魔物が棲む城らしい。
……しかし。
「……何でコック帽被っているのかな?」
「さぁ。知らね」
二人共、怪訝そうに顔を見合わせる。それはそうだろう。普通に考えてコック帽を被ったゴブリンなんて普通はいないからだ。
「ギャウギャウ! グギャウ!!」
「グギャギャ! ギャウ!!」
「……ルゥ、何て言い合っているか判るか?」
顔をしかめるレイ少年に、
「ちょっと待ってね。
異なる世界、異なる者。互いの意志を互いの内に。開け扉よ」
ルーティスはすかさず得意魔法の双璧である『魔力と会話できる魔法』を唱えた。この魔法は魔力に疑似人格を与えて会話する力を得るだけでなく、異なる種族同士の言語を共通化させる力もある。
今それを利用しつつ、
『どうしたの、ルゥ?』
「あぁ風の魔力達。あそこのゴブリン達の会話を増幅させて僕らの耳に届けてくれないかな?」
……一番大気中に多い風の魔力にお願いして。ゴブリン達の会話を聞き出す作戦だ。ルーティスとレイは柱の陰に身を潜めて、魔力達の届けるゴブリンの会話を盗み聞きする……。
『何としても今度こそは美味しいケーキを作るのだ!』
『料理長! お嬢様の為に頑張りましょう!!』
「……何か料理作っているみたいだね」
ルーティスは魔力達の翻訳を聞きながら首を傾げる。
「……何で料理なんだよ?」
不思議そうなレイに、
「良く判んないけど……お嬢様の為だってさ」
ルーティスは真面目に答えた。
『ルゥ。ゴブリン達どこか行ったよ』
ふと風の魔力達が、ルゥに喋りかける。
「さっき料理がどうこう言っていたし厨房かな?」
風の魔力達に返すルーティス。
「厨房って事はさ。
……なぁルゥ。飯あるかな?」
「あると思うけど――ってあれ?!」
ルーティスは振り向いた瞬間驚愕する。
何故ならそこには親友の姿が見えなかったからだ。
「さてはアイツ! 厨房に盗み食いに行ったな!!」
『ご、ごめんなさい……私達も止められなくて……』
怒るルーティス少年に、必死に魔力達が謝罪する。
「いや仕方ないよ……。とにかく止めないと! いくら魔物相手でもちゃんとお金を払って交渉してから貰うんだぞ! 勝手に取っちゃダメなんだぞ!!」
ルーティスはぷんぷんと頬を膨らませて怒りながら、彼を追いかけて奥に向かうのだった。
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