本について

 最近は書店に入っても何も買わずに帰ることが多い。本棚に差したまま読めずにいる本が思い出されて躊躇してしまうのだ。彼らはものによっては年単位で読まれるのを待っている。前買った本を読む前に気になる本が出てしまうから悪いのだと思う。これではいつまで経っても手持ちの本を読み終えることが出来ない。

 書店と言えばこの頃は珈琲を出す店を併設してるところを多く見掛ける。珈琲を飲みながら本が読めるということなのだろうが、私は本を読みながら何かを口にすることは受け付けない。それでも、飲み物だけならまだ分かる。中には軽食をつまみながら本を読むような人もあって、油や塩が本に付着したらどうするつもりなのかと聞きたい。私の知り合いが私の本を借り、菓子を摘まんだ手を洗わずに本を読み始めて非常に腹が立ったのを思い出す。あれ以来人に本を貸したことはない。風呂に入りながら読む勢力もあるという。一度読んで捨ててしまうような雑誌ならそれでもいいのかもしれないが……。

 本に対する畏敬の念が薄れているのではないかと思う。本の一冊は著者の歴史である。人生である。血そのものである。別に本を無暗に崇めろというのではない。著者も読者も真剣に向き合ってほしい。書店に平積みされている本の多くは一度読んで捨て思い出すことも無い、その場だけ楽しければ良いというような、それこそ菓子のようなものばかりである。これでは人生を変えるような読書体験は得られないのではないかと愚考する。

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