旅情

 旅行が好きである。小学校低学年の子に「知っている都道府県を挙げよ」と言い、十五番以内に出てくるところには全て足を運んでいると思う。高学年だとそうはいかない。「自分、知ってますよ」とでも言いたげな嫌な笑みを浮かべて、東京や北海道を差し置いて初っ端から高知とか島根とか言い出すからである。そういう輩は地獄に落ちるので最初から問題にはしてないが、念のため低学年に限定しておいた。


 話が逸れたが、私の旅行の楽しみはその土地に住んでみるというところにある。無論、本当に引っ越すわけではない。あくまでも住んでいる気になるだけだ。このあたりに住んでいたら私の生活はどうなるのだろうか、と考えながら歩き回るのが好きなのだ。これは結構手軽に出来る。飛行機や新幹線を使わずとも、電車に三十分も乗れば知らない街に行ける。しかし、こういった楽しみは一人でしか出来ない。他人と行動するときは名所や名産品が欠かせないからだ。それに体力もいる。誰も彼も意味も無く歩くことが出来るわけではない。大抵の人は京都に行けば八ツ橋を買い、金閣寺を見なければ気が済まないということだ。


 旅行に意味を見出す必要があるのだろうか。温泉街に泊まり、一日中旅館で過ごしてもいいじゃないか。朝風呂に入り朝食を取って本を読む。夕食を取って温泉に入りまた本を読む。最高の贅沢だと私は思う。

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