第14話 一発で正解されると拍子抜けする
「では説明しよう」
講義のような口調でスレイマンが語りだした。
「世界の秩序はイスラーム法であり、それは
「法学者が判断するのでは」
「お……」
スレイマンは意外そうな反応をした。
「違いましたか?」
「いや、一発で正解を出されると拍子抜けする……」
「いいではありませんか……私だって近習学校で聖典も法学概論もハディース学も全部“優”を取ったのですから、そのくらいわかります」
「む……ならば聞こう。法学者とは何だ?」
「え?そんな基本からですか……法学者とは、聖典についての知識を修めた者で、現実社会で起こっている問題に関して、聖典を解釈し、合法か違法かを
口頭試験に答えるようにイブラヒムが言うと、スレイマンはふふっと笑った。
「な。校則と聖典の間には“解釈”があるだろう」
イブラヒムははっとした。
「あ……つまり、校則をつくるにあたり、法学者による聖典の解釈があるということですか」
「そういうことだ」
「先ほどの話にあった、“近習学校の学友と二人きりで夜を過ごしてはならない”ということについては、当然聖典には記載がなく、近習学校が作られた先帝の時代に、法学者の“解釈”に基づいて、“校則”となったわけだ」
「つまり、スレイマン様が“校則をつくる人になりたい”とおっしゃる意味は…」
「ああ、法学者になりたい、ということだ。だから、勉強に時間を取らなければ」
「何故、また」
法学者はなかなかに地味な仕事だ。解釈をしたところで、それが採用されるとは限らない。たとえ地方でも行政官の方が、余程世の中への影響力は大きい。
そもそも、王族が法学者として生きるなど、あり得るのだろうか。
「ああ、そなたの言いたいことはわかる。私は王族。政変に巻き込まれて処刑されるか、地方行政官として生きるか、だ」
実はもう一つ、“皇帝になる”という道もあるのだが、それを口にするのは憚られる。
「しかし、やりたいこと、好きなことについて“何故”を説明するのは難しい。人についてもそうではないか?能力の優劣はそれなりに説明できても、好き嫌いについて論理的に説明するのは難しいとは思わないか?」
それはその通りだ。そもそも何故こんな時間までスレイマンの話につき合っているのか、それは論理的に説明できるものではない。
「論理的な説明が難しそうだから、物語で説明してみようか」
スレイマンはにっこりと笑った。
ええ!? 明日の仕事は…と思いながらも、諦め半分、好奇心半分で、イブラヒムは頷いた。
こうして、スレイマンの「次の物語」が始まった。
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