エピローグ:アナログ的なコミュニケーション
今日も今日とて、放課後にコミュ部へと集まりゲームをする。今日は私とチノちゃんと、イズ先輩、コイ先輩。ゲームは『コヨーテ』というものだ。心理的なブラフ、場のコヨーテの数の計算、そして直感的なプレイが必要となってくる。ゲーム内容を知ったときはイズ先輩が得意そうだと感じたけど、意外と直感のさえるチノちゃんがこのゲームにおいて異様な強さを放っていた。現在の状況はチノちゃん以外崖っぷち。
このゲームはやってても楽しいけど、負け抜け形式とはいえ疑心暗鬼となっているメンバーをみるだけでも楽しい。そう思うのは少しばかり意地が悪いのかもしれない。
「うぅん、難しいところだけど……ここはコヨーテ宣言かな」
「せーの」
チノちゃんのコヨーテ宣言の後、イズ先輩の声に合わせてカードをオープンする。結果はコヨーテ成功。つまり。
「私の負けだね」
いち早く負けが確定してしまう。まぁ、確かにぎりぎりの線だったし仕方がない。ここからは皆の疑心暗鬼を楽しむことにしよう。そんなことを考えていると部室の扉が開く。
ゲーム中の三人を置いて、私はその扉を開けた相手とやり取りをする。
今回のカードは三人中二人が特殊カードと、かなり荒れそうである。
「ほぉ、今日はコヨーテか」
「そうです。皆さんは?」
「この三人は全員進学希望だからな。奨学金制度の説明やらを受けてきたところだ。と、ゲームもだいぶ進んでるらしい。なら、次は私たちも参加させてもらおうかな」
代表をして、マキさんが応じてくれた。なぜ少し遅れてやってきたのか、その説明はほどほどでもう目的はゲームの方に移っているらしい。
「マキとコヨーテするのは正直怖いのよね。この子、とにかくブラフを仕掛けてくるから」
「私は最初になんどか仕掛けるだけで、後はみんなが勝手に疑心暗鬼になっているだけじゃないか」
その言葉に反応したのか、一歩後ろ、微妙に部室から離れた位置にいる彼女が少し低い声音でマキ先輩へと返事をした。
「……それが、嫌だといわれているのよ」
「小日向先輩もいらっしゃいませ」
頭を下げる。小日向先輩もまた、挨拶を返してくれた。その瞳にもう敵意のようなものは存在しないように思えた。
「そういえば、生徒会の任期はもう?」
「一応選挙が終わって、全ての引継ぎが終了するまでは私ということになってるわ。とはいえ、もうほとんどは二年生の生徒会役員に任せているけどね」
「なるほど……ちなみに、コヨーテのルールはご存知ですか?」
「いえ……、どのようなルールなの?」
「簡単に言えばインディアンポーカーに似たようなゲームということになります。ルールは――――」
私がカードテキストを見せながらルールの説明を行う。とはいえ、ほとんどがイズ先輩の受け売りだけども。少しづつゲームを覚えてルール説明も行えるようになっていかなければ、私が先輩になったときに大変なことになりかねない。イズ先輩がまだこれる時期ならいいけど、忙しくなったら、あとはチノちゃん頼みにってのは、なんとなく嫌だし。
明るい木漏れ日がさす中、私の説明を受ける小日向先輩。説明の途中途中でゲームのコツとか、小さな疑問点を尋ねてくるあたりに彼女の真面目さというか、几帳面さがよくわかる。私もそこまで得意なゲームでもないので、あまり突っ込んだ質問に関しては答えることができないけども。
そうして、チノちゃんの勝利で終わったコヨーテを一度片付けて全員にくばりなおす。ゲームマスター、というほどではないけど、ゲームの進行はここからはモカ先輩に任せる。彼女の進行でゲームをすることが多いというのもあるけども、この安定感は安心をする。
ゲームは難なく進行をしていく。厭らしいとしか言いようのないマキ先輩の攻め口に苦笑いをしながらも、ゲームはしめやかに進行をしていく。こうしてみるとありありとわかるのが、チノちゃんは直感的プレイは強いけども、マキ先輩やモカ先輩に心理戦をかけられたり、話術にはめられたりすると余計な思考がぐるぐると回っているのか途端に弱くなる。チノちゃんの天敵はこの二人なのかもしれない。
対して小日向先輩はイズ先輩と少し似ていて、ロジックを積み重ねていくタイプらしく、あまり回りの反応をあてにしていない様子だ。
その点がイズ先輩との違いともいえるかもしれない。まぁ、イズ先輩はただ単純にゲームに慣れているからというのも大きいのかもしれない。時に心理戦を仕掛けたりもしている。
小日向先輩とはあの一件以来、つかず離れずに関係を繰り返しているらしい。今日のように、たまにマキ先輩がコミュ部へ拉致してくることが時々ある程度だ。それと、『そしてふたりは手を取り合って』は10回目にしてようやくクリアできたらしい。その時の瞬間は見ていなかったが、ずいぶんと喜んでいたらしい。主にマキ先輩が。
その様子を自撮りしたものが私にも送られてきた。いやいやそれに応じている小日向先輩が印象的だった。
それからというもの、二人のすれちがいについては特別言及はしていなかったが、私はそれでいいと思う。仲直りなんて、たいていはいつの間にか終わっているものだし、そもそも私が首を突っ込むようなものでもない。
だけども、それでいい気がする。喧嘩ばかりの関係でも長く続くのならば。それは、顧問であるマイちゃんとアキさんが証明をしているようすだ。二人の喧嘩の原因はいまだに不明だけども……決して嫌いあっているわけではない。
「ヒナ、今のコヨーテ」
「……なんで私のブラフはことごとく読まれるのよ」
「さぁな、直感的だ」
「ふふっ、まだカードオープンしてないんだけどね。では、みなさん、カードオープン」
モカ先輩が進行をする。
この結果でまたゲームが進んでいく。一喜一憂するメンバーに、私も小さく笑いながら、今日もアナログゲームとコミュニケーションを繰り返していた。
アナログコミュニケーション 椿ツバサ @DarkLivi
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