第2話

既視感とはなんだろう。彼女を抱いてもそれはそれまでと同じ硬くて少し温かい生身の塊だった。変わらない作業、ホテル、別々に浴びるシャワー。それでもやっぱり、彼女が違ったのは女子高生であるということだ。駅前に迎えに行った時、彼女と同じ制服を着たJKが脇を通って、一応、憚りながら、それでも車に乗り込む彼女を思い出すと素直にすごいなと感じる。人はなぜ、セックスをするのだろう。行為をすればするほど、その本質というか真意というか、意味からどんどん遠ざかってしまってしまう。だけど、そんなことわかっていたし、その理由も明らかだったけど、見てみないふりをして、そんなことを考えてしまうから余計に萎える。だから、いつも僕はいくフリだけをして、コンドームを外した。なるべく、頭を空っぽにする。


「...」


その度無言になって、ムードのカケラもない。かけておいたはずのカーラジオも消えてしまって、だけど飛ばすこともできないし、別れ際、恭しく振る舞うのが精一杯だった。今でも彼女と同じ制服を着た女を見るたびに、感傷的になることはなくても、それに似た近い感覚が、言葉では

「かわいいな」

の一言に置き換えて、気を紛らわす。誰にも相談できない、誰にも打ち明けられない、誰とも話せない。人間は人と話せなくなったらきっと発狂するのだろうか。観念的だとよく言われる。散文的だとも、この文章のようにまとまりがないと、そんなことはどうでもいい。俺はただひたすら、運命的な出会いを、彼女に感じた何かの灯火を、忘れないように、消してしまわないように、生きようと思った。散々、母親に苦労をかけた、父にも、家族にも。常に女性には優しくありたいとわざとらしいほどに意識して、女を泣かす男は何たらという戯言を念じるように、だから、生きる、母親を泣かせないためにも、悲しませないためにも、あたかも普通の楽しげな大学生を演じた。辛いのは、俺じゃない。世の中にはもっと辛い思いをしている人がいる。俺は優しすぎるのかもしれない、誰かに言われた、まだ若いから大丈夫と、もっと何かを選んでもいいと、でもそんなことは到底できない。えらべるのはラーメン屋のメニューぐらいだ。染み付いてしまったこの性格はどこにへも行かない。女子中学生を無理矢理犯しても変わらないだろう。というか、まず俺にはレイプができない。臆病者だから、レイプをする人間の方がよっぽど自分に素直で実直で、何よりも優しいのではないだろうか。俺はただ、欲求を断ち切るように、事あるごとに優しさというオブラートに包んで、でもそんなことはみんな知っているし、やっている当たり前のことなんだろう、がしかし、やっぱり俺はその優しさがどうしても無駄に思えてしまう。何故だか、生きるとか死ぬとかそういうことばっかり考えてしまう。物心がついてしまった時から人間はどうでもいいことをどうでもよくないことに置換して、そんな世の中が嫌だ。でも誰にも迷惑をかけたくない、普通に生きたいだけなのに、それもできないから、犯罪者になろうと思っても、恨めしい優しさのオブラートのせいで、ここから踏み出せない。

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悲しみの果て @reflection

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