みずタイプVSくさタイプ(【アビリティリングの秘密】より)

 宇宙からの侵略者、エンダーえんだー達との戦い。


 初戦は|空くんの、つまり私達人類の勝利だった。


 だが私達はこの勝利を簡単に喜ぶことができなかった。


「これはこれは、初戦を取られてしまいましたか」 


 向こう岸の敵が話しかけてくる。


「……どういうつもりだ? 場外したにも関わらず攻撃を続行するとは」


「卑怯だぞ! 場外だったのに攻撃しやがって!」 


 ユウゆう車田くるまだくんが抗議する。私と氷華ひょうかちゃんも怒っていた。


 この戦いの勝利条件は、相手をフィールドから場外にするか、相手を殺すか。


 勝負は完全にそらくんの場外勝ちだった。


 なのに相手は攻撃を続行した。


 そらくんは難なくエンダーえんだーを消滅させたけど、これは明らかなルール違反だ。


「はて? 何のことでしょうか?」 


 なんと相手は白を切ってきた。自分達は場外負けしたところを見てないという。なんというやつらだ。


「白々しさもここまでくると感心しますわね」 


「さて、次鋒戦と行きましょうか」 


 もう次の試合を始めようとしていた。話をするつもりは無いらしい。


「今の試合で、分かったことがある」 


 ユウゆうが腕を組みながら話す。


「敵にとって勝ち負けなんてどうでもいい。俺達を殺せさえすればいいんだ」


 そんな! と私は叫ぶ。


「それじゃあ、ルールなんて無いも同然じゃない! こんな試合、する意味ないよ!」


「だろうな。……だがこちらがルールに背いたことをすれば、奴らは鬼の首を取ったかのごとく、人類を抹殺するだろうな」


「そんな……」


「とにかく、今は勝つしかない。しかも場外や気絶ではなく、相手を殺しての勝利だ」 


「でしたら、わたくしが次鋒を担当しますわ」 


 氷華ひょうかちゃんが立候補してきた。


「大丈夫か? 敵はおそらく、お前が水系能力者だと知っているぞ」


「ご安心ください、負けるつもりはありませんわ。それとユウゆうさん」


「なんだ」


「以前も言ったでしょう。私のことはH2O使いと呼んでくださいな。やつでやつでさん、すみませんが帽子を預かってくださいますか?」 


 私は氷華ひょうかちゃんの被っていた麦わら帽子を受け取った。


 氷華ひょうかちゃんはフィールドへを向かう。 


 次の敵は青色のローブを着たエンダーだった。ローブを外すと、中から腰の曲がった立派な髭のおじいさんが出てきた。


「ホッホ、よろしくの、氷華ひょうかちゃん」


「ええ、よろしくお願いしますわ。……わたくしの名前を知っているということは、やはりわたくし達のことは事前に調査済ということですか」


「当然じゃ。敵を倒すためにはまず敵を知らんといかん。マッハまっはの馬鹿は己を過信して、敵を侮った。故に負けたんじゃ」


マッハまっは? ……ああ、さっき常盤ときわくんに倒されたエンダーえんだーのことですか」


マッハまっはは馬鹿じゃったが、どこか憎めない奴じゃった。……敵は取らせてもらうぞい」


「申し訳ありませんが、わたくしも負けるつもりはありませんわ」


「ホッホ。……バトル開始じゃ!」


 老人と少女は後ろに飛び、互いに距離を取った。戦いが始まったらしい。 


「はっぱカッター、じゃ!!」 


 老人の手の平から無数の葉っぱが出現する。それらの葉はまるで意思を思っているかのように、氷華ひょうかちゃんを襲う。


「curtain!!」 


 氷華ひょうかちゃんは自身の能力で、地面から水柱を発生させる。それはまるで水のカーテンだった。


 カーテンは氷華ひょうかちゃんの盾となり、彼女を守る。


「ならば、これじゃ! ウッドハンマー!!」 


 老エンダーえんだーの腕が、巨大な木に変化。


 老人はそれを勢いよく振り下ろす。


 氷華ひょうかちゃんの水カーテンはその衝撃に破壊された。


 周りに水しぶきが上がる。 


 こちらにも水しぶきが飛んできたが、ユウゆうが私の前に立って、濡れるのを防いでくれた。


 車田くるまくんは涼しい! とはしゃいでいた。


 そらくんは能力で水しぶきを回避。


「shoot!!」 


 氷華ひょうかちゃんも負けじと攻撃に転じる。水でできた砲弾がエンダーえんだーを襲う。


「なんの! コットンガードじゃ!」 


 老人の足元から、巨大な綿が飛び出してくる。それが壁となって、水攻撃から、主であるエンダーえんだーを守る。


「ホッホッホ、お嬢ちゃん。君は、ポケモンを知っておるかね? そのアビリティリングあびりてぃりんぐ流通する前に、地球で流行っていたゲームなのじゃが」 


 老人が綿の壁の隙間から、氷華ひょうかちゃんに話しかける。ここからだと何を話しているか、よく聞こえない。


「ワシはポケモン、大好きじゃ。能力の技の名前を、ポケモンから引用するほどじゃ。……そして、お嬢ちゃん。君はポケモンでいう水タイプのようじゃな」


「……」


「残念じゃったな、ワシは草タイプ。水タイプは草タイプに弱い。この勝負、ワシの勝ちじゃ」


「まだ、勝負はついていませんわ。wave!!」 


 氷華ひょうかちゃんは大波を発生させた。 


 何もないところでこれだけの水を出せるなんて、やっぱり氷華ひょうかちゃんはすごい。 


 氷華ひょうかちゃん、大波でエンダーを攻撃する。


「無駄じゃ! ハードプラント!!」


 エンダーえんだーの足元から、いくつもの巨大な植物の根が飛び出してくる。それら主を守るよう壁となる。  


 巨大な根が氷華ひょうかちゃんの水攻撃をを全て吸収してしまった。


「ホッホッホ」


「まだですわ。wave!!」 


 氷華ひょうかちゃんは何度も大波で老人を攻撃する。


 しかし、その水を何度も根が吸収する。


「……なるほどの。お嬢ちゃんの目論見が分かったぞい。大量の水を吸わせて、ワシの植物を根腐れさせるつもりじゃな?」


「……」


「ホッホッホ、残念じゃがそれは無理じゃ。ワシの植物は、うわばみでの。その程度の量では腐らぬわ」


 氷華ひょうかちゃんは、攻撃を続ける。 


 諦めずに何度も何度も水で攻撃する。 


 しかし敵には全く効いていない。 


 それどころか、水は植物の成長を促し、根はどんどん巨大になる。


「無駄だというのに……若い者は怖いもの知ら――」


「……お爺さん。さきほど私に、ポケモンが好きかどうか聞きましたわね。ええ、私も大好きですわ、ポケモン。よく弟達や妹達とゲームをしたりやアニメも見ていましたわ」


「ほう」


「お爺さんの言う通り、水タイプは草タイプに弱い。でも、あなたもポケモン好きなら知っていらっしゃるでしょう。水ポケモンは敵である草ポケモンに対抗すべく、『あるタイプ』の技を覚えることができる。そして、その『あるタイプ』は草タイプが苦手とする相性……」


「……!! まさか!」


「そのまさかですわ! freeze!!」 


 氷華ひょうかちゃんの発生させた水が一瞬にして氷に変わり、老人の根の壁を凍らせた。


「こ、氷!? 吹雪ふぶきは水使いじゃなかったのか!!?」 


 驚き叫ぶ車田くるまだくん。私も彼と同じ心境だ。


「水使いではなく、H2O使い……。なるほど、確かにその通りだ」 


 ユウゆうが何か分かったような顔をしている。自分だけ納得していないで私にも教えてよ。


やつでやつで、問題だ。水の化学式は?」


「そんなの簡単、H2Oよ」


「では、氷の化学式は?」


「えっと……あ! H2Oだ!! じゃあ氷華ひょうかちゃんは……」


「初めて会った時にも、あいつは言ってただろう。自分はH2O使いだと」 


 つまり、氷華ひょうかちゃんは水だけを操るのではない。氷も操ることができる、そういうことだ。


「いや、おそらく水と氷だけではない。俺の予想なら、氷華ひょうかは……」


「まだじゃ! まだワシは負けて、負け、ま――」 


 どういうことだろう。老エンダーえんだーの様子がおかしい。苦しそうに喉元を抑えている。 


「私はH2O使い。操れるのは水や氷だけではありませんわ」


「あ、が、が……」


「H2O。その化学式が示すは、液体の水、個体の氷、そして……」 


 氷華ひょうかちゃんが指を三本立てる。


「vapor。私の能力で、お爺さんの周囲一帯に水蒸気を充満させました。植物の成長に必要なのは、水と酸素。水があっても酸素が無ければ、植物は生きられない」 


 酸欠で、エンダーえんだーが倒れる。発生させた植物は、彼の命が消えゆくのを暗示するかのように、ゆっくりと枯れていった。


「よっしゃぁあああああああ! 吹雪ふぶきの勝ちだぁあああああああ!!」  


 車田くるまだくんが勝利者の名を叫ぶ。


「お爺さん。よくアニメでサトシさんが仰っているでしょう」  


 灰になりつつあるエンダーえんだーに、氷華ひょうかちゃんは語りかける。


「『相性だけがポケモンバトルではない』。私が相性のいい水タイプだからと油断したのがあなたの敗因ですわ」

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