第2話 キャラ設定なの?
「役所に相談したらそのように裁判所に頼むといいと言われました」
女性は用心深い低い声で「でも、裁判所の業務ではありません」と繰り返す。三回は同じセリフを聞いた。
「いや、でもネットにも載ってます。相手に養育費が止まっている事を知らせる手段があると」
「はあ。相手に、知らせる、ああ、あーはい、知らせる、わかりました」
女性の声が少し高くなった。
「はい、はい、やってます。相手に通知を出すのですね」
言ったじゃん!
私も大人だ、それ以上言わなかった。
五分以上のやりとりの後、ようやく部署に繋がる。今度は中年らしき男性の声だ。
「はーいはいはいはい、養育費のね、勧告ね! やってるよ!」
よ! 親父! やってるかい。
昔の居酒屋のノリである。
絶句する私をよそに男性……多分裁判員は続ける。
「手元に調書ある? それないとね、あなたの何がどうとかできないの!」
「よ、用意してあります」
それこそ久しぶりに調書を机に並べる。わら半紙に簡素な文書が調書である。改めて見るとなんと頼りない紙。ちなみに私はこの電話の後、厚紙にコピーして手帳にしまった。装備はできるだけしておいた方がいいのは、前回の調停で学んでいる。
そこには数字が並んでいる。調停番号いく幾つ、それがカケル三つ。一つ目は私が起こした円満調停、二つ目も私が起こした婚姻費用分担調停、三つ目は元旦那が起こした離婚調停。その三つとも伝える。
「で、その時のあなた、あなたの苗字とお名前は何さん?」
数年ぶりに苗字を伝える。
「今から検索して調べるから。折り返し電話するね! だからちょっと待って!」
そう言って裁判員は電話を切った。なんだよこのキャラは。ネタはいらないんだってネタは!
ふと、調停で出会った裁判官を思い出す。阿部サダヲさん(に、似ている人)と野間口さん(最近ドラマに出てないな……舞台なのかな……)元気かな……。
あれかな。日々私のようなマイナス電話や対応しなきゃいけないからかな、キャラ濃いめの方がやっていけるに違いない。確かに、私のメンタルではこれらを華麗に捌くことはできない。なるほど。
いや、そんななるほどいらない。
メンタルさておき、受付の方、なんで知らなかったの……? 私の伝え方が間違ったのかなと、電話がかかるまでの数分間、考えていた。
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