番外編・ネタはいいから金をくれ

第1話 養育費が止まったよ

 せっかくの機会だ。旬なうちに、と久しぶりに筆を取った。


 養育費がストップした。


 お前はそんなにもネタを作りたいのか? そりゃね、養育費が止まる話はよく聞くよ。でもさ、一応でも物書きによくぞネタを振ったな? などと、真っ先に思ったがネタはいらない金をくれ。

 調停にて決まった金額を、それでもとりあえずは振り込んでいた。……とりあえずというのは、なかった月もあるが次の月からは再開していたので一応は継続という形をそこそこ成していた。あてにしているわけではないし、それがないとどうしても生きていけないわけではないが、少しでも責任を持って欲しいという意味で養育費という形を持たせている。

「金だよ、金! 金がなきゃ意味ないでしょ! 黙って払えって思うよ」

 十年通っている美容院のいつもの美容師さんは言った。責任云々言ったところで通じないのでダイレクトに「金が欲しい」もうこれでいいよ、なんでもいいから金じゃ。二人で金トークをしているうちに私の気持ちは固まった。

 家に着き、ネットを開く。役所にある母子父子の相談窓口の電話番号。それをメモに書き留めてから検索ワードに「養育費、裁判所、勧告」を入れた。ヒットは早かったが、その前に出てきたサイトが「養育費を払いたくないあなたのために」だった。

 即キレたのは書くまでもない。

 腹立たしさをここに書き出すとしたら本一冊分になってしまうのでやめておく。

 さて、裁判所は中々便利であって、養育費を払わない人に向けての勧告をしてくれる。電話一本で相手に手紙を出してくれるのだ。ただしこの勧告は命令ではなくあくまでお知らせなので、聞く聞かないは相手の判断になってしまう。それでもこの勧告は返事を求められるものであり、全くの無視というのも――相手の精神のレベルにもよるが――できないものなのだ。

 ここまで調べたところで役所に電話した。得られた回答はネットで調べた情報と一致した。解決方法はこれが最短であるようだ。最善かは不明だが。

 そして久しぶりの裁判所への電話。数年ぶりである。

 何コールかしたところで女性が出た。二十代あたりの若い声をしていた。

「養育費が止まったので相手に勧告通知をお願いします」

「は? 裁判所ではそのようなことは行っていません」 

 は?

 それは私の言葉だ。

 これは……前途多難な予感しかない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る