第20話 離婚届
次の日、いよいよ離婚届を提出する時が来た。
友人Aは離婚した私を慰めるわけでも労うわけでもなくいつも通りに来た。彼女なりの気遣いだ。おかげで私もいつも通りの気持ちで役所へ行けた。
「調停で離婚が成立したので離婚届を出しに来ました」
役所で各種業務を行う部署で離婚届を提出した。間違えてはいけないので、友人Aとあーでもないこーでもないと言いながら名前と住所を書いて提出した。友人Aはしみじみと「勉強になるわー」とつぶやいた。
結婚中で同じく息子一人いる友人はおもしろそうに言った。私はもちろん、サムズアップ。
なんて、アホなやり取りをしていたせいか、役所のお姉さんは苦笑いを浮かべていた。そして、
「戸籍はご両親の元に戻るか、独立するか、どちらにしますか?」
戸籍は選べた。またも親の子に戻るか、七津として単独家族になるか。
もちろん、戸籍は単独にした。実家に戻ることになったが、世帯主も私にした。一つ屋根の下でも世帯主を二人にする事が出来るらしい。しなくてもいいのだが……実は離婚する少し前から父親の容態がおかしくなり、不安要素があったから、というのもあった。ネタが尽きないのも困りものだ……。
息子の戸籍も旦那の戸籍から引っこ抜いて私に入れた。
続いて、再び裁判所へ。
息子の苗字を変える手続きを行う。これが一週間もしないうちに完了。苗字が変わった事で保険から何から何まで変更しなくてはならない。私も息子も。仕事をしながら手続きに奔走すること数日。
夫婦別姓制度に賛成だ!!!
面倒にもほどがある!!!
結婚姓で呼ばれるのはさすがに不愉快なので、さっさと変更したいのだがなかなか終わらない。細かいところまで言えば、ポイントカードすら変えなくてはならない。
その後も年金や健康保険など手続きに手続きをして追われた。
そうした細かな手続きさておき、離婚の成立は一瞬だった。私はその日、新たな戸籍と共に旧姓へと戻った。
離婚はゴールではない。始まりでもない。
結婚した、そして別れた。けれど特別な事ではない。日々の中にたまたま生じたものに過ぎない。
離婚中、たくさんの人が私を励ましてくれた。それは離婚するからでなく、毎日毎分毎秒の中に普通に存在していた。それが離婚を通して、私の目の前に明らかな形となって現れたのだ。
私には親も友人も同僚も恵まれていて、息子も生まれ、息子を支えてくれる人がいて……私はこんなにも大切にされている。こんなにもたくさんの人がいる。
結婚、離婚、いろんなものが吹き飛んでしまった。
能無しでお気楽で数ある人の中の一人に過ぎない私という存在を想ってくれる人がいる。この事実を心から感じるようになった。
結婚しなきゃ、子ども産まなきゃ。離婚しちゃだめ。そんなの私が勝手に作った幻想で、私は私だけで充分だった。
――その清々しさを感じるようになったのは現在になってからだけど。
体当たりで挑んで砕けて突っ走って、なんだか無駄に自信がついたから、うん、まあ、離婚もそんなに悪くない。
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