第15話 第五回

 私は裁判する気満々だった。

 息子がいる。友人がいる。親がいる。他にも私を守ってくれる人はたくさんいる。

 特に、友人Aがいなかったら今頃生きていないってほどお世話になったし現在もなりまくっている。

 彼女たちが傍にいてくれる私なら裁判でもなんでもやれる気がした。

 

 五回目。慣れるのもどうかと思う……待合室で呼ばれるのを待つ。

 部屋には五十代後半のお母さんと二十代後半の息子が寄り添って座っていた。

 まさか、自分の離婚に母親を連れてきたんじゃないだろうな!?

 ガルガル期の母親のように横目で二人を見ていると、二人の調停員さんであろう女性が入ってきた。四十代であろう、スッキリとした印象の人だった。

 

「調停員さん、あっちは何ていってますか? 親父、相変わらず変なことばっかり言っているでしょう? もう母の身体もしんどそうで……」


 息子は心配そうに母親の肩を撫でた。どうやら、母の離婚調停らしい。母親は握りしめたハンカチを拝むように揉んだ。

 調停員さんは愛想笑いのようなものを浮かべ、

 

「ええ、まあ、話には応じてますよ」

「親父の浮気はうんざりですよ! いい歳してやんちゃして……どれだけうちら親子が苦労したか! 慰謝料、慰謝料はもちろん取れますよね!?」


 息子が興奮し始めたので、調停員さんは慌てて親子を部屋へ連れて行った。

 熟年離婚、しかも浮気とは……。私は短い結婚生活で終われそうだけど、こんな苦労をして長年一緒を思えば、早めに離婚できてよかったのかもしれない。

 

 佐藤さんがやってきた。そして部屋に入り、腰掛ける。正直、私から言う事はもうない。

「裁判ですが、正直材料が少ないんですよね。離婚理由も明確なものはありませんから。相手さんにもそうお話してます」

 山田さんも大して話す内容なく、呆れたように言った。もちろん、旦那に呆れているようだ。

「私としても裁判官の方としても裁判は避けたいので、できたら今日話がつくようにお話しますね」

 私は改めて、養育費は譲歩する事ともう共に生活しない事、その他の理由もすべて離婚に繋がるようにお願いした。

 

 再び旦那からの私のターン。

 渋い顔はもう嫌だが、山田さんはため息をついていた。

 

「七津さんは自営業ですよね? あの、相手が言うには、別の職業についてもっと稼げと言ってます。そもそも生活費が少ないのはそっちが自営業なんてやっているからで、ちゃんとした職に就いてないからと……」


 なんだその苦情は。

 自営業と言っても普通に稼いでる。何をもってちゃんとと表現するかわらかないが、生活費は折半してたし、妊娠中の通院代と出産費は私が出している。風俗にでも行けというのか。

 加えて、

「今までの生活費も出したくなかったと……」

 なんだったら返せの勢いだ。

 よくわからないが、よくわからないからこそ、なんでもいいから裁判をやってくれと頼んだ。何を言っても通じない相手と話していても仕方がない。

 

 五回目。

 途中、二ヶ月後になったので調停から半年経った。息子もそろそろ一歳になる。

 山田さんにラスト勧告をお願いした。

 今までの思い出の品を全部持ってきた。

 旦那に「自分で破棄するように」と頼んだ。私はもうあなたといる気は全くない事をアピールしまくった。

 

 そして、養育費はさらに半値でいい。無理なら次回から裁判だ、と伝えた。

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