第14話 ちぐはぐ
四回目。
婚姻費用を捨て、結婚式の写真を捨てる暴挙に出た旦那のターン、そして私のターン。
おじさん調停員の山田さんはまたも首を傾げていた。
「相手が、本当は離婚する気はなかったって言うんですよ」
まーよく言うわ。
どうやってもこの調停を拗らせたいらしい。
「家に帰って来なかったり荷物を持って出て行ったのは、実家で七津さんと一緒に暮らすための準備をしたかったからで、離婚するつもりじゃなかったと……」
山田さんと、おばさん調停員佐藤さんは顔を見合わせて「……ねぇ?」とアイコンタクトを取った。二人の目は明らかに「よくわからん」と言っているし、私も思いっきり「はぁ???」と変な声を出した。
「え、それって頭おかしくないですか……? 旦那、離婚調停の申し立てしましたよね? 円満調停やめて離婚の方向にしましたよね?」
「いや、でも……なぜかそういう事らしいです。離婚するつもりじゃないと……」
私も頭を抱えた。本気で頭おかしいのかな? と思った。
これが少女漫画かなんかなら復縁も考えたかもしれないが……いやいや、ないない。とんでも義父母にとんでも旦那とあなたは暮らせますか? そこまでして結婚ってしなくちゃいけないんですか……。
「よくわかりませんが、養育費の値段を決めてください。相手が答えてないのはそこでしょう? これでも払えないって言うなら、値下げしましょうか」
給与算出も安いが、私が提案した養育費も安い。さらに値下げをするって言うんだから、もうこれで決めた方がいい。
だって――それは次のターンで言われる事となる。
「大分安いですが、大丈夫ですか?」
山田さんが不安そうに言ってくれた。
いいわけないが、離婚をメインに置いているのだから仕方がない。世の中には養育費すらもらえないシングルマザーもいるのだ。それを思えば……。
旦那のターンが終わった。
山田さんが渋い顔をしてる。
オーケーオーケー、払えないってか。
山田さんは顔面をしわくちゃにして、ついに言った。
「このまま決まらなければ裁判になります。私たちとしては裁判にまで発展するのはよくないと思いますが……」
「わかりました。裁判でもなんでもやってやろうじゃないの!」
と、高らかに叫んだ。
ここまできたら最早ネタ。
物書きの端くれとして最高のネタを手にしているのだ! 裁判? 上等だゴルァ!
と、ここで四回目は終了した。
その晩、ラインが何通も来た。
あれだけ音信不通だった旦那からだった。
「俺をそんなに貶めたいわけ? そんなに金が目当てか」
「離婚するつもりなかったのに先走るな」
「そうやって俺一人を悪人にしたいわけだ」
「死んで欲しいとか思ってるの?」
そんなメールが山と来た。
もちろん、無視した。画面上で通知確認して、後はサクッとブロックした。既読すらつけなかった。
せめて息子の名前があったら読んだのかもしれないが、女々しいラインのメッセージにすら息子の名前はなかった。
忘れてたが、私は入院中、音信不通になる前、息子の写真を送っていた。全部無視された。息子の写真すら、なかったことにされた。
改めて、出産時に祝福がなかったことを恨めしく思った。
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