第三章 調停、夏の陣

第13話 第四回

 二ヶ月後――四回目の調停が始まろうとしていた。

 

 間が空くのはやきもきしたが、産後の身体もかなり回復、体重もすっかり元どおり、そして精神も安定しつつあった。ハイもウツもなく、いつもの七津に戻りつつあった。

 

 我ながらメンタル強いな、というか図太いな、と感心する。

 

 もちろん、調停中はつらかった。

 旦那が消えたあの日から絶望の日々と、「私のせいで旦那も子どもも不幸にしてしまった」という罪悪感で押し潰されそうになっていた。


 私は、そう、懺悔しよう。


 調停を行うのも、弁護士さんに相談したのも、全ては自分のためだ。「私のせいではない」という免罪符が欲しかった。

 

 私は悪くない。

 悪いのは旦那だ。

 

 そう思いたかった。そうすれば少しでも逃げられると思った。この状況が少しでも軽くなると思った。

 そんなものは存在しない。軽いも重いもない。

 離婚調停を行なっているという事実だけで、それがいいも悪いもなく、当人たちの問題であり、私を守る人(旦那を守る人)、私を恨む人(旦那を恨む人)それぞれがそれぞれに行動するのみ。

 

 私は悪いのだろう。同時に悪くないのだろう。

 

 平たく言えば、気が合わなかった、それだけだ。お互いがそれを見抜けなかっただけだ。

 だからこの時……もう少し後か。離婚は悪ではないとわかった。離婚を、それはもう悪事のように言う人がいるけれど、(もちろん時と場合によるが)悪くはないのだ。

 

 調停だって、ちょっとした悪夢を見ていると思えばいい……夢はいつか醒める……ただ余韻が永遠と続くけど、しょせんは夢だ……。

 

 そして四回目。

 大きくなってきた息子は友人に預け、単身で挑んだ。

 

 まず言ったのは、婚姻費用について。

 私はいらない、と言った。

 そして家に残っていた旦那の持ち物を全て袋に突っ込んで渡すように伝えた。

 親権は私に。旦那は息子には会わなくていい。

 養育費くらいは払え、当然の義務だと、給与から算出した値段より少し下げて伝えた。

 

 私たちに離婚する理由はない。理由がないと実は離婚はできない。

 離婚に至るまでの道筋に理由はなかったけれど、息子をいらないと言った旦那を育児放棄として捉え、離婚の理由とした。

 もうこれで充分でしょう、私。

 旦那という、父親という役割を放棄する人といて何がいいもんか。

 もう、これで理由はついた。あとは離婚するだけだ。

 調停員二人に私はついに言った。

「早く離婚したいのでぐずぐず言ってないでさっさと金払えって相手に伝えてください」

 そうして、結婚式の写真を丸めて放り投げた。

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