第10話 第三回

 三回目。

 つまり、三ヶ月が経過した。

 息子誕生からすでに半年。息子もさすがに大きくなって首も座って笑うようになっていた。

 

 見ての通り、二回でまったく進展はない。

 ――このままでは終わらない。調停が永遠に続いてしまう……。

 この頃、さすがの私も冷静になっていた。

 旦那に対する愛情がほぼ消えた。円満とかもういいので、この状況自体を明確にしなくてはと考えていた。

 図書館に行き、離婚調停の本をいくつか借りて読みふけった。まずは調停自体を知らなければ進めない。どういった流れで行うのが最善か、そして息子にとってよい道はどれか、それを考えることにした。最早感情論は捨てなくてはならない。理由なんて甘っちょろいこともなしだ。

 旦那は、父親は、息子を、望まない。

 その事実だけでもう充分だ。

 

 本は助かった。読んで正解だ。

 婚姻費用、子どもとの面会、親権、養育費、などなど。よく聞く慰謝料については、こちらは取るに難しいと書いてあった。浮気の現場を押さえるなど、明らかな場合は取れるようだが……これらについては、また後ほど書くとしよう。

 調停で話す内容は結局これらが主体なのだ、それらを絡ませながら言うことにしよう……。

 

 もう、円満になったところでやっていけはいなと思った。夫婦としても無理だし、子どもをネズミのように扱う義父母にもうんざりだった。

 

 少しでも進ませるべく、本に書いてあるセオリーをなぞることにした。

 

 三回目チャレンジである。

 

 調停室に入ると、またも婚姻費用についての話からだった。それも交えつつ、息子の話へシフトさせた。

 息子についてはどうするつもりか。

 夫が傷つけば息子は放棄していいものなのか。だからと言って無銭はいかがなるものか。

 プラス、今までの生活費用の一覧と結婚式の時のプランまで引っ張り出した。旦那はおもしろいほど何もやらない。全部私がやっていた。生活費の算出はもちろん、何か購入する際の決定、今までお歳暮お中元すらやった事がないのでそこ(義父母はお歳暮等々を、あれは賄賂だし他人に物をやる行為は卑しい行為だからやってはいけないという方針。まあ、家庭の在り方はそれぞれだ)、結婚式の並びやお返しもだし式場の手配や進行も、車の運転も妊娠中だろうとなんだろうと関係なく高速を飛ばし……キリがない。それらを全て箇条書きにし、各日数や金額を細かく並べ、一覧表にした。創作オタクのパワーをなめないでいただきたい。プロット立てるより簡単だ。

 給料については……。これはまあ……旦那の名誉を少し守りたいと思うが、フォローするのも切ないものだった。(よって、婚姻費用の算出は平均よりも低い。でも出せない旦那であった)

 

 そこに感情は加えなかった。

 ただの事実だけを並べる。

 そして旦那のターン、そして私。

 調停員が首を傾げていた。

「息子さんについて、そちらで育てれないならこっちで引き取ってもいいとのことです。お金については本当に余裕がないので婚姻費は難しいと……。前よりは受け入れてくれるんですが、いや、もうね、当たり前の責任なんですよ。この事実があったところで、旦那さんの責任としてやらなきゃいけないことなんですけどねぇ」

 さすがの調停員も態度が砕け始めた。

 うちの息子の扱いはやっぱりネズミ駆除か何かだし、お金はとにかく無理。おい、なんの進展もないぞ。

 調停員は困惑しながら、

「離婚調停に切り替えましょうか? もうその方がいいと思います」

 と、私への慰めも含みつつ言った。

 

 で、離婚調停へと替わるのだが、裁判所から封筒が届いた。

 旦那からの離婚調停の申し立てだった。

 馬鹿だなぁ……。改めて離婚調停をお願いしてきた旦那だが、こんなことをしなくても勝手に離婚調停に切り替わるというのに、印紙代を払ってまで申し込んで来たのだ。調停員二人は「どのみち離婚調停になるのに」と言いつつも返金はしてないようだから、食えない人たちである。

 

 して、三回目で決まった事は、離婚調停に変わった事と、お金については少し考慮してくれたら払えるかもしれないという、ほんのわずかな進展のみだった。

 

 けれど、調停員の態度や自信が知識を少し身につけたことにより、私の気持ちは大きく変わっていた。

 いつのまにか、産後ウツも消えていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る