第5話 住所は知らせますか?

調停の申し込み欄には、調停をいつ行ってほしいか? その際、旦那に直接会うか会わないかとかいろんな項目がある。(刑務所に入ったからという項目もあった。お、おお……)申込書で書いた内容も、相手に「奥さんが調停を頼んだよ! こういう理由であなたは調停します」と、奥さん(つまり私)の住所ごと通知される。

DVやストーカーで逃げている人にとっては、調停自体が地雷だろう。旦那に会って怪我をしたり殺されたり……まであるかわからないが、可能性としてはないわけではない。住所も知らせるかどうか、プライバシーに関係するものの項目は細かい。

逃げているわけではないので住所は通知オッケー、けど旦那には会いたくなかった。姿を見たくなかった。

怖かった。

ここまで会わずにいられる神経を持つ音信不通の旦那に、得体の知れない幽霊じみた気持ちを抱きつつあった。

会わないようにして欲しい、怖いと書いた。

裁判所はそれをきっちり守ってくれた。その後、調停の行き交いで一瞬かち合いそうになった時も時間をずらす考慮をしてくれたので本当にありがたかった。


そうそう、もう一つ助かったのは、本籍地が地元であったこと。本籍地が他市に移動していたり実家が他県だとその県の裁判所に行かなくてはならないので面倒。

それを考えれば、近場の裁判所で助かったと言えばそうだが……お互いの実家が市内というのは中々に地獄だ。(近くのショッピングモールには行けなくなってしまった)


――ちょっと余談。


住所だが、退院した次の日、出生届を早く提出しなくてはと、歩いて公民館へ行った。地元は子どもに対する手当が出るのでそれの書類も書いている時に……職員さんが首を傾げた。

「旦那さんの住所が違うんですけど……」

 旦那、息子が生まれた次の日に住所を自分の実家に移していたのである。

 そこかよ!!!!!!

 やるべき事はそこかよ!!!!!

 その場でうな垂れたのは言うまでもない。漫画みたいなうな垂れ方に職員さんが慌てたのも言うまでもない。


話は戻り、さらに一ヶ月後。


素っ気ない封筒が届いた。裁判所と書いたものはビビって捨てられる可能性があるから名前と支部だけの茶封筒を送っている、だそうだ。逆に怖い。

私が指定した日通りになり、息子の荷物一式抱えて裁判所へ向かった。


吐き気が止まらない。

顔が青ざめていくのがわかる。

それでも、ここまで来たのだ。引き返せない。

私は指定された場所へ向かった。

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