第2話 ウツ?
呆然とするまま退院の日が来た。息子は体重が増えてから退院だったので一足先に私だけ退院。
家はガランとしていた。
私はぽつんと一人、立ち尽くした。
誰もいない。
突然、涙が吹き出た。
産後ハイからの産後ウツへ突入したのだ。そしてこの産後ウツ、鳥が歩いているのを見るだけでも泣けてしまうという謎の悲しみに襲われるのだが、私も例に漏れず鳥を見ては泣きアリを見ては泣き、花が咲くだけで大感動してしまうテンションに陥ってしまったのだ。
とにかく泣いた。
息子のお見舞いに行っては泣いて、息子の可愛さに泣いて、ひたすら泣いて、助産師さんを心配させた。
あまりに泣いたり笑ったりが激しい私を心配したのか、助産師さんの一人がそれとなく「調子はどうですか? 旦那さん、喜んでるでしょう?」と聞いた。さすが助産師さん、察し能力が高い。しかも大変優しく話を聞いてくれた。(それほど尋常じゃなかったからだろうけど)
すると、一人が「それはウツかもしれない」と言った。お父さんになるプレッシャーでウツになるという現象があるそうだ。
そうかもしれない。
私は助産師さんにこころの相談窓口の電話を教えてもらい、すぐに電話した。
相談員は一通り聞くと「ウツかなぁ……? 話し合ってみたら?」と言った。音信不通だと伝えると、詐欺にでもあってませんか的に不審な声になったのでやめた。
私は泣きながらひたすら旦那の連絡を待ち続けた。
それしかできなかった。
正直、この頃の記憶は薄い。食欲がなく、すぐに母乳がストップした事と乳腺炎にかかった事だけが残っている。
ああでも、食欲がない私を案じて母が味噌汁を作ってくれたなぁ。不思議と味噌汁だけは飲めた。あまりの美味しさに泣いた。
二週間後、息子が退院した。
なんとか2300gまで体重が増えた。幸いにも、内臓にも頭にも疾患はなく、むしろなんでいつまでも入院してるの? ってくらい元気に毎日泣き喚いていた。あまりに泣きすぎるので、私が入院中も何度も呼び出されてNICUに通いまくった。甘えん坊なのね、と助産師さんたちはニコニコして言った。……このNICUというところは、低体重と黄疸の子以外にも、未熟児と植物状態の子も入院している。全身チューブに繋がれた子もいた。赤ちゃんは生命そのものだ。命で、希望だ。だからこそ、お医者さんも助産師さんも楽しそうな声で、嬉しそうな声で明るくいるのだろう。心電図やらが鳴り響く薄暗い中、その笑顔と気楽な様子はこの入院中の救いであった。
そしてその後三ヶ月、旦那から連絡が来る事はなかった。
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