01 竜の山脈
「死んでます」
ひとりの兵士が、足もとを見て
「こんなところで――樹からでも落ちたのか」
兵士の上官がそばに並び、首をかしげる。落葉の散らばる土に片膝をつけば、ぱり、と
二人の視線の先にあったのは、白くたおやかな――少女の
「……
口元からのぼる息が、
砂漠を越え
樹々が生い茂り、
〝竜が出る〟――という伝説の残るアルマ山脈。大陸を這って北と南とを分断するさまは、まさしく竜にも例えられるほど巨大だ。
その、凍りはじめた山の中腹で、男たちは困惑に眉をひそめるのだった。
「どうしましょう、コンツェさん――いえ、コンツ・エトワルト中隊長。
わずかばかり年かさの部下に尋ねられ、コンツェと呼ばれた青年が頷く。
「可哀想に」
ぼろぼろの衣装は、粗末な麻地の縫い合わせだった。いたるところに裂け目が生じ、ほどんど裸といってもいい。散り散りの布は赤黒く染まり、肌や髪にまで、血がべっとりとこびりついている。
「よほどの高所から真っ逆さまに落ちでもしなければ……こうはなりませんよ」
運が悪かったんでしょうね、と続ける部下に、コンツェは沈黙で同意を示した。
丸めた身体を抱きかかえる手は、だらりと力なく、後方に
骨折か脱臼か、もしくはその両方か。
しかし、この辺りの樹木の高さでは、どう考えても説明がつかない。まばらに生える
革の手袋を口に咥えて引き抜くと、コンツェはその手を少女にさしのべた。たったひとり。霜の降りた土の上で、孤独に死を迎えた少女。その無念を思いながら、少女の首もとに手を触れ――はっとする。
「……いや待て、……生きてる」
氷のように冷たい少女の首すじ。けれど、ほんの
のばした手を
血の気の失せた
「生きてる」
なんと幸いな娘であろう。
「……息が!」
驚くまま声をあげた部下を見やり、コンツェはようやく頰を緩めた。
呼吸している。普通ならば、命を取りとめることさえ叶わないはずの重傷であろうに。
この娘は〝強運に恵まれた〟としか、言いようがなかった。
「運びましょう、コンツェさん、いえ、コンツ・エトワルト中隊長」
骨折、切り傷、多量の出血。加えてもうじき雪も降ろうかという寒さ。いくら幸運に恵まれた娘でも、このまま放りおけば間違いなく死ぬ。
「もうコンツェでいいよ。たしか軍医は、」
「はい、アン・トスカルナ少尉が」
「そうか、よかった」
髭の伸びはじめた
「急ごう、この
敬礼で応えた部下が、少し離れた場所で指笛を吹く。
コンツェは身に着けた
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