第3話 長いものは結ばれる。

 ミミズが苦手。

 子供の頃、とても大きなミミズを目にしてから、どんなに小さなミミズでも避けて通るようになっってしまった。

 もちろん、ミミズ本人が悪い訳ではないので、こうした感情を持ってしまうことを、とても申し訳なく思う。


 外に出て、土に触れ風を感じ光を浴びる。

 いつも、振り返るといるはずの弟がいない。あれ?と思い視線を飛ばすと、地面にしゃがみ込み、何やら熱心に手先を動かしている様子の小さな背中が見えた。

 私は悪い姉だったので、後ろから脅かしてやろうと足音を忍ばせて後ろから近付いた。

「わっ!」と声を掛けた時のことを想像して、わくわくする。


 そして弟の手元をのぞき込んだ時、違う意味で「わっ!」と言ってしまった。

 弟の足元には、ミミズがいた。そのミミズは明らかに困っている様子で気の毒に見えたけれど、こんなことを考えつく弟は天才なんじゃないかと思った。ミミズを紐のように結ぶなんて!


 ただ、私はミミズが怖かったので、どうしたらいいかわからなかった。

「かわいそうだよ、ほどいてあげて」

 こっくりと肯いた弟だったが、ミミズ自身が自由になろうと全身を使ってもがくのと、小さな手が滑ってしまうのとで、思うようには進まない。


 私は、その柔らかい体がいつか破けてしまうのではないかと思って、心配でたまらなくなり心臓がドキドキと音を立てる。

 ゆっくりゆっくり、結びめががほどけると、疲弊した様子のミミズはその体を伸び縮みさせながらその姿を土の中へと進ませる。


 カナチョロを捕まえるのは上手じゃない弟だけど、ミミズを結べる弟のことを私は密かに尊敬している。

 私には決して出来ないことだから。


 土の香り。

 陽の香り。

 風の香り。

 どれもこれも、優しい香りたち。

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