第2話 キスしたらさよならのルール。
ちょろり。
草の影から細長く美しい尻尾が見えている。
子供の頃「カナチョロ」と呼んでいたトカゲで、その素早さがとても魅力的だった。
物音を立てずにそーっと近ついて、手の平をぱっとかぶせるようにして捕獲する。私が捕まえている側では、失敗した弟が悔しそうな顔を見せていた。
いつ考えだしたのか、もう今は思い出せないけれど、捕まえたカナチョロに、唇のはじっこでチュッとしたら逃がす、と言うくだらないルールーを作って実行していた。1日10匹捕まえたらはい終わり、という妙なルールも。
いつものように首尾よく捕まえる。少し大ぶりなカナチョロを撫で撫でして唇を寄せると思わぬ反撃が待っていた。
「カプッ!」
咬まれたのだ。
びっくりした私は「わっ」と言って手を放す、けれどトカゲは放れない。
驚く私の唇からぶら下がるトカゲ、と言う変な構図が出来上がってしまった。
「お姉ちゃん、かわいそうだよ」
気が付いた弟が小さな声をあげる。どっちがかわいそうなの、と一瞬思う。
顔を左右に振ると、ぽとりとトカゲが地面に落ちた。
しなやかな体にスピードを乗せて駆けて行く。その無駄のない動きにしばし見とれてからハッとする。
「今、トカゲに咬まれたんだ……」
私は、初めてトカゲに咬まれるという経験にちょっと興奮していた。痛みはなく、かぷっと言う感触がくすぐったかった。今思うと、なんて変な子供だったのだろうと思う。
カナチョロからしたら、迷惑極まりない行為だったと思う。本当に申し訳なかったなと、大人になった今の私は思う。あの時のカナチョロに会えたなら、あの時強引にキスを迫ってごめんねと言いたい。
白地のワンピースを着た私と。
青地の半ズボンを履いた弟と。
ふたつの影が、重なり地面に落ちる午後。
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