第2話 unknown 下

この状況はいつか来ると思っていたが、こんなにも早く来るとは思ってもなかった。


現在地は祖父母の家のリビング。

前方には現保護者である祖父母がおり、

隣には容姿端麗、仙才鬼才の異星人。


複雑な関係の4人である事に加え、

嫁宣言した女の子をいきなり連れ込んでの

食事である。


昨日は泥まみれで帰宅した後

お互い風呂で汚れを落とし、

深夜だったため紹介は朝という事にしたが、

翌朝になってみると

挨拶の前に朝食をしましょうという

おばあちゃんの提案により今に至る。


いつもは楽しい会話で盛り上がる

食事がこんな地獄に成り果てるとは…。

世の中の婚約した方々もこんな状況をみんな乗り越えたのだろうか。

本当に尊敬するよ。

はっきり言って、今にも逃げ出したい気分だ。


さっさと食事を終えて、自己紹介をしようと思った時だった。


「………結弦。一ついいかね」

「…何?おじいちゃん」

まさかじいちゃんから話しかけて来るとは

思ってもいなかったから

説教でもされるのかとヒヤヒヤしていた。



「そのな…。彼女とはどこまでしたんだ?」

「じいちゃん!!まだ午前8時だよ!!

それも一つ目の質問でいきなりぶっとびすぎだよ!」


「いやぁ〜、この家を継いでもらうこともあるしなぁ〜。孫の顔も早く見たいんよ」

「結弦ちゃん!それは私も見たいわ!」


「なっ!!ばぁちゃんまで!

そーゆーことは何もしてないから!

そんな急ぐことはないだろ!」


さっきから異星人が何も言わないかと思えば

横で顔を真っ赤にして、モジモジしている。


それを見た僕まで顔を真っ赤にして

祖父母に意味深な視線を向けられてしまう。

けれど、すぐに嬉しそうな顔をして、


「結弦ちゃんに貴女みたいなお相手ができてよかったわ…。これからもよろしくお願いします」


「あっ!こ、こちらこそよろしくお願い致します!!」

なんか本当に嫁みたいな挨拶をする、異星人にドキドキしながらも、

僕は祖父母が一瞬見せた、悲しい顔を見逃さなかった。


「けれど貴女には大事なお話をしないといけないわ」

「ばぁちゃん!その話は……」

食事の後ゆっくり話そうと思っていたことを

話し出した祖母を止めようとした時だった。


「その件に関してですが!私は全て知っています!」

「おい、シオリ…」


「私は、何年も1人でした…。

どこに辿り着くかも知らずに、知らない土地でどのような扱いを受けるか不安でした。

そんな不安もここに来てなくなりました!

最初に会ったのがこの結弦さんだったからです!彼の秘密を勝手に覗いてしまった事を

申し訳ないと思っています…。

ですが、独りの私に居場所を与えてくださり、また現実に屈することなく生きようとする姿に心奪われました。

彼が残りの時間で成し遂げる事を見てみたい。そのために助けになる事をできるなら何でもしたい!今はそう思っています!」


「お前……。」

出会ってたった10時間くらいしか経っていないのに、そこまで言ってもらえるとは思ってなかった。

俺も何かしてあげればいいのだが、

今は居場所を作ってやることしかできない。



「いいところ悪いが、時間だねぇ」

「ばぁちゃん?何の話?」


「結弦ちゃん。その彼女さん追われておるね」

「どういうこと?」

シオリもその言葉にキョトンとしている。


「結弦ちゃん。1分以内に返答してな、

あんたこの子守りきると断言できるかい?」

今までの祖母と口調と雰囲気が変わりすぎて

僕は一瞬怖気づきそうになった。


「何が起こるんだ?」

「かなりの人数がこの家を囲ってるねぇ。

朝から物騒なこった」


その言葉に僕とシオリは驚愕する。


昨晩寝る前だった。


「私がいることで結弦くんに危険が及ぶかもしれない。それでもいいの?」

「僕が言い出したことだ。それくらい考慮してる。だから心配しないでいいよ。

この家が君を守る」


「私は運がいいね。

最初に会ったのが君で良かったよ。

それじゃあ、おやすみなさい」


「うん。おやすみなさい」



現実は冷酷で容赦をしない。

僕はそう知っているはずだった。

けれどここまでとは

思っていなかった。

言い淀む僕に祖母は言う。


「もう一回だけ聞くよ。守りきれるのかい?」


僕は彼女を守りたい。

けれど、この身体で守れるのか?

そもそも逃げてどうする。

彼女1人で逃げた方が。


そこで気づく、彼女を1人にするのか。

また孤独にするのか。

この仲間のいない星で。

ここで行動しなければ、何も変わらないぞと

叫ぶ自分がいる。


「守るよ。やってみせるさ」

「よく言った。それでこそ私の孫だよ!

蔵の奥から3番めの床板から

裏山近くまで通る、隠し通路がある。

そっから逃げな!」


「ばぁちゃんとじぃちゃんは?」

「舐めんじゃないよ!

私らを誰だと思ってんだい!」


そういうと、リビングの押入れから

薙刀と日本刀をだして、


「「日の丸魂見せてやるってもんよ!」」


まさに武人と思える2人に見送られ

シオリの手を引いて蔵に飛び込む。


「アルカだっけ?あれはどうする?」

「話を聞いてる時に透過状態で

上空に上がらせてあるわ」


「わかった。じゃあ行くよ!

準備はいいか?」

「うん!行けるわ!」





「はぁはぁはぁはぁ…」

心臓が痛い。

体が悲鳴をあげているのがわかる。

吐血も何度しただろうか。

アルカの延命措置によって

この6ヶ月間なんとか生きてきたが

限界がきたようだ。


「結弦!!一回休もう!!」

「いや……、もう追手がすぐそこまできてる」


今僕たちはがいるのは富士山の麓にある

樹海深部。

追手から逃れるうちにここまできてしまった。


ガザガザッ!

横たわる僕の横の茂みから飛び出してきた

何かが僕の右手に噛み付く。


「クソが!!」

「結弦!!!」

腰に装備したサバイバルナイフでシェパードらしき生き物の首筋を引き裂く。

鮮血とともに生き絶える声が聞こえる。


「結弦!腕が!」


意外と出血が多い。

シオリが自分のスカートを破り

応急処置をする。


「はぁはぁはぁはぁ、ゴホッゴホッ!」


咳とともに血液が流れ出る。

ここまでか…。


「…シオリ。俺はここまでだ。

話を聞いてくれないか」

「何言ってんのよ!まだまだこれからでしょ?あれから6ヶ月しか経ってないのよ?

こんなところで、

死んでられないんでしょ!!!」


「シオリ!!頼むから聞いてくれ……」

「わかった。けどちょっと待って」


シオリは横たわる僕を優しく抱き上げ

出会った時のように、膝枕をしてくれた。


そして、この状況でもニッコリと笑顔で

「いいわよ。それでどんな嬉しい言葉をくれるのかしら?」


「えっとな、、この6ヶ月間。

きついこともあったけど、本当に楽しかったんだ…。

けどな…、俺は弱いから…。

それで考えたんだ。

シオリを守れる方法をずっと。

それでな…、見つかったんだよ」


「そうだったのね。

それでどんな方法で私を守ってくれるの?」


彼女は優しく、頭を撫でながら

聴いてくれた。


「…アルカで探してたんだ。

それでついこの前見つかったんだよ。

多種生命複合生存コロニー」


「………うそ」


「それでな、アルカでSOS信号を送ったんだ。この地球はシオリを捕まえて

何するかわからないから」


「何勝手にしてるのよ!!

結弦はまた私をひとりにするの!!!」


彼女は涙を流しながら拒絶した。

こんなことはあってはならないと。

けど僕にはこれが精一杯なんだ。

体も不自由で、君を守るには全然力がなくて

考え抜いたらこれしかなかったんだ。


「シオリ…。そこにはね

君と同じ人種の人もいるんだってさ。

だから、そこで僕の分も生きて…」


「ふざけんじゃないわよ!

貴方が、結弦がいないと私、生きられないわよ!1人でそんなとこに行くぐらいなら、

ここで実験材料になった方がマシだわ!」


「僕だってシオリがいないともう生きられない!別れたくねぇよ!

けど…それよりも生きて欲しいんだ。

愛してるよシオリ…」


周りから足音が聞こえる。もう追手が近い。

捕まるわけにはいかないんだ。

あの時決めただろ、彼女を守り抜くと。


「アルカ!シオリを連れて、

コロニーに行けぇ!

道筋通りに行けば一年でいけるはずだ、

頼んだぞ、アルカぁ!」


そういうとベッドタイプだったアルカはワイヤを伸ばし、シオリを機体に引きずり込む。


「やめなさい、アルカ!

おろしてぇ!おろしてよ!」


どんどん浮き上がるアルカを見て、

一安心する。

身体の感覚もだんだんなくなるなか

シオリの声が聞こえる。


「結弦!待ってなさい!

生きて待ってるのよ!

絶対に帰ってくるから!

死んだら許さないんだから!

わかった…?」


「あぁ、待ってる。

ずっと待ってるから…。

出来るだけ早く来てな」


涙を流しながら彼女は最後に

いつかの夜のように笑顔をさかせ


「さよならなんて言わないわ、

またね結弦」


そう言って宇宙航行型アルカに乗って

空に飛び立って行った。







「本当に以前の記憶が戻り、

それまであったことは覚えてないんだね」


純白に満たされた部屋の中

白髪の医師からの質問に答える。



「はい…。何も、覚えていません」



俺は気づけば病室にいた。

俺はあの家族を失った事故からの1年間の記憶を丸々失っていた。

事故以来、解離性障害という精神的な病気にかかり、

祖父母の家で何かの事故に巻き込まれ

大怪我をし、

もともと弱かった身体を更に

酷くしたらしい。


それからというもの

病状の悪化により

東京の大学病院で、二年近くを過ごしていた。

タイムリミットの3年までもうすぐそこまで迫っている。


「すいませんが、その当時の俺が何をしてたか教えてもらえませんか?」


俺の元には医療機関の人以外にも

何を職業にしてるのかもわからない様な

人さえその1年間について聞きに来た。


質問に対して、彼らは教えられない

しか言わずに、去っていったため

俺も知らないのだ。ら


担当医は少し悩んだ上でこう言った。


「君は冒険してたんだよ」



その日の夜はその言葉の意味を考えていて

全く寝れなかった。

こういう時はこっそり抜け出して、

夜空を見に行くのが習慣だった。


廊下をできるだけ足音を立てずに進み、

階段をゆっくり上がる。


身体が悲鳴をあげるが

星を見るためならと思い、必死に頑張る。


やっとの思いで屋上にたどり着き、

屋上の地面に仰向けになる。

そして満面の夜空を見上げた。


夜空を見上げると何かわからないが安心する。誰かが見守ってくれている様なそんな気がして。


ふと頰に何かが流れた。

それが涙だと気づくまでだいぶ時間がかかる。


「なんで俺泣いて…」

次々と流れ出る涙を止めることは出来なかった。


袖で、涙を拭いてこのまま寝てしまおうかと思った時だった。


「まだ生きてた……!」

凛とした声が耳に届く。


慌てて振り返ると誰かが

思い切り、胸に飛び込んで来た。


「おいっ!あんた誰だ?」

そういうと青い髪の彼女は

涙を流しながら、 僕と見つめ合う。


「あれだけのことしといて忘れたの?」

「え……。俺あんたに何かしたのか?」


その言葉を聞いた彼女は

「アルカ!ちょっとお願い!」

といい

何かが高速で上空から降りてくる。


目の前に降りて来たのは黒と青でできた

ベッドだった。


「ここに寝てくれない?」

全く知らない人から

怪しいものに寝ろと言われても

信じられるわけもなく、

拒否すると、


「いいから寝ろ!」


と強く押し倒されてしまった。


そして脳波測定器の様なものをつけた

彼女はこう言う。


「私の中の結弦。全部見せてあげる」


そういった瞬間。

知らない光景が見えた。


膝枕で寝かされている俺。

泥だらけの姿で、祖父母に何か叫んでいる俺。

誰かの手を引き暗闇を走る俺。

それからも俺が知らない、

光景がいくつもいくつも流れていく。





「結弦。おはよう」

僕を見上げる彼女は涙を浮かべながら

そう囁く。


「おはよう、シオリ。一年ぶりだね」


その言葉に

笑顔をさかせ、僕の頭に抱きつく。


「苦しい!息ができないよ!」

「最初、誰とか言われた時。

殴ろうかと思ったからね!」

シオリは笑いながらも涙を流しながら言う。


「ごめんって!思い出したから許して!」

「そう簡単には許さないんだから!」

頰をふくまらせた彼女は

顔を背けてしまった。


「じゃあこれで」

体を起き上がらせ、彼女の顔を引き寄せる。

あの一年。そして待ちに待ったこの一年。

ずっと我慢していた。


二年だけど、何万年も長く思えたこの時を

溶かすかのように口づけをする。

名残惜しそうに終えると


「一回だけじゃ許さないんだから」


赤面しつつも僕に微笑みかけて、

二度目、三度目とお互いに求め合う様に

愛を求め合う。


「それでね聞いてよ!

私ね、結弦のために頑張ったのよ!」

「嬉しいなぁ〜。これ以上に何してくれるの?」

そう言うと夜空を指差しながら言った。


「貴方の身体を、直す技術を見つけたの。

コロニーに着く頃には

手術どころかリハビリも終わってるわよ」


「ほんとに…?」


「ほんとにほんと!

じゃあ、アルカに乗って行くよ。

この子2人乗れる様になったのよ?

あと貴方のために月の近くに手術のできる

ドッグシャトルも来てる。

これからは私が結弦を守る番よ」


「シオリ…、本当にありがとう!」


「いいえ、けど貴方何か忘れてるわ」

彼女は少し言いづらそうに口をパクパクしている。


「大丈夫だよ。ちゃんと覚えてるから、

これからもよろしくね。嫁さん」


「バカ……」


上目遣いで赤面する彼女をもう一度抱きしめ

アルカに乗って

僕たちは新しいスタートを切った。















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いつか必ず 大仙タクミ @DaisenTakuma

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