いつか必ず

大仙タクミ

第1話 unknown 上

後部座席の窓越しに外を見ていた。

深夜の幹線道路は生気がなく、昼間とは

打って変わって死んだように静かだった。


彼女ができると世界が輝いて見える。


そんなセリフを何処かで聞いた。

なら今の自分は、

先の宣告によって世界が死んでしまった

かのように思う。


「結弦……。何かしたいことはないのか」


運転中の父が問いかける。

僕の耳の蝸牛では、言葉を捉えたはずだが

脳が考えることを拒否している。


「………今日はちょっと休みたい」


それに対して、わかったと

言ったきり

病院を出てからというもの

黙り込んでいる弟や母同様、父も

なにも言わなくなった。


何かしたいこと。

車窓から夜空を見上げるが、道路照明灯の光

で星1つ見えない。

今の僕も一緒だ。

今まであった目標が、他のものに邪魔されて

全く見えていない。


「ばあちゃんの家に行きたい……」

あそこならまたあの星が見えるだろう。

そうすれば何か変わるかもしれない。

残された時の中で何をしたいのか、

何をするべきなのかも。


「そうか。

すぐにばあちゃんに連絡しておくよ」


父もようやく元気を取り戻し始めて、

少しトーンの上がった声で返事をした。


早く行きたいなと

視線を運転席から外に戻した時、

僕らの乗ったセダンは交差点を通過しよう

としていた。


その時だった。


上下左右のわからなくなるほどの衝撃により

僕は窓ガラスからとてつもない一撃を食らった。

視点がぼやける。そして、身体の感覚が一瞬消えたあと、またしても強い衝撃と転がる感覚。

意識の途切れる瞬間僕が見たのは

燃え盛る鉄くずと、道路に横たわる赤く照らされた僕の身体だった。




「結弦〜。あんた本当に空が好きやねぇ」

「んー、好きというよりも何か惹きつけられるんだよね」


僕はどれがどんな名前の星かなんて全く知らないし、あまり興味もない。

けれど、この星々が

何万光年も遠く離れたこの地球にまで

何万年という時間をかけて

光を届けている事実が好きだ。

それら星の寿命に比べれば

僕の寿命なんて一緒だけれども

何万年も昔の光を見ていると思うと

なんだか長生きしているような

得した気分にもなれて嬉しい。


「私はもう寝るけど、結弦ちゃんも早く寝るんよ。ここは寒いし、体に響くわ」


「ありがとう、おばあちゃん。

おやすみなさい」

「おやすみなさい〜」

そう言っておばあちゃんは

寝室へと歩いていった。


僕の座る縁側からは

昔大地主だった、おじいちゃん所有の

裏山が暗闇にドンと構え、その上には

雲ひとつない満面の星空が望める。


「よっこいせっと」

二月になって肌寒い時期にもなり

僕も寝ようと縁側に背を向けた時。


背後がとても明るくなる。

慌てて振り返ると、


一筋の光と共に白赤色の火球が

怒号を上げつつ、静かな夜空を駆け抜ける。

そして、裏山を穿った。


とてつもない轟音と衝撃波を発生させ

自分の居る側と逆斜面に落ちた隕石は

1キロ近く離れたここにまで

砂埃が襲ってきた。


「クソっ!なんだよこれ!」

砂埃でよく見えないが、裏山に赤い光源が見える。


「ばあちゃん!じいちゃん!無事かー!!」


「結弦ちゃん!大丈夫よー!

怪我はしてない!?」


「あぁ!大丈夫!

けど、裏山で山火事が起きてる!

どれだけ酷いか確認しないと!」


「結弦!!

代わりに見てきてくれ!

危ないから手前まででいいから、

じいちゃんは消防を呼んでくる!」


「わかった!」

壁伝いで自室までいき、

懐中電灯を持って家を飛び出る。


慣れ親しんだ、裏山への田んぼ道は

岩などで荒れ果て、

裏山では道がふさがっていたが

迂回して、落下地点へ急いだ。


そして山頂を超えると、それは見えた。


裏山の中腹に落下した隕石は

直径50メートルほどのクレーターを形成し、

吹き飛ばされた木々は

クレーターの淵になぎ倒され

野焼き後のように黒ずんでいた。

山火事になりそうな程にはなっていないため

安心したが、

僕の意識は山火事よりも

クレーターの中心に注がれた。


『隕石ではない』

見た瞬間そう思った。


は岩石のようではなく、

青黒色の卵型で確実に人工的なものだった。


青黒色の部分は特殊な金属のようで

球体の全体を通る規則的な線からは

青い光が脈打つように流れている。


それが何かわからないが

好奇心が僕を動かした。


クレーターの淵で登れそうな場所を探し、

に向かってゆっくり歩いた。


熱いのかと思ったら

熱気もなく、近づいても反応もしない。


「どこからきたんだよ…」


一周ぐるっと回って、何もない事を

確認してから少し触って見た時だった。


触った場所から、波のような波紋が広がり

それは動き始めた。


ガシャン!!


球体全面にあった線が開き、

形が変化していく。

某ロボット映画のように変形を続け、

はカプセルのようなベットに

なった。


「なんだこれ」


そこには、

白人のように透き通る白い肌。

それと対比したような、漆黒のワンピース。

地毛なのだろうか、毛先の方は奥が透き通って見えるコバルトブルーの髪。

そして美しく端正な顔立ちを持つ綺麗な女性だった。


「おい、起きろ!そんな格好だと風邪引くぞ!」

そういうと、返答ではなく違うものが返ってきた。


ベットの下からワイヤーのようなものが

飛び出て、足をすくい上げる。


やばい、と思った時には遅く、

足と手を封じられ吊るし上げられた。


「おい!どうするつもりだ…。

食べるとかは勘弁してくれ!」


叫んでいると、次は脳波測定器のような

吸盤が頭に付けられた。


あぁ、意識を飛ばしてから食べられるのか

ほんとに短い生涯だった…


と思った時、

今まで生きてきた時の記憶がフラッシュバックする様な感覚に陥った。

自分の知らない、記憶まで呼び起こされ

頭が割れそうになる。

誰かが頭を覗いているのがわかった。


「くそが!!やめろおぉー!!!!」


最後に見えた景色は

全体的に赤い視界の中、

燃え盛る何かと血だらけの自分だった。


そこで意識が途切れた。


とても落ち着く……

こんな気持ちになったのはいつぶりだろう。

あれは、みんながまだ生きてたころだった…



微睡む意識のなか目を覚ますと

さっき見たベッドに横たわる自分の身体と

美女が見えた。

おまけに膝枕までしてくれている。


「えっと……。貴女は?」

「私の名前は、シヴァルツ・オリタナ・リーゼンバイト。

シオリと呼んでください」


「じゃあシオリさん…。なんで膝枕してるの?」

「えっと…。私の地元では膝枕は親愛の印なのです。この星では失礼な行為でしたか?」

いい匂いと後頭部に感じる柔らかい感触で

表情筋が緩みそうになるのを抑え、

なんとか返事した。


「いえいえ!貴女の様な綺麗な方に

してもらえるなんて光栄です」

「そうでしたか!それなら良かったです。

この星の言語を理解するために記憶の解読を

行ったのですが……。

貴方の身体に副作用が出てしまい、治療したところです。本当にすいませんでした…」


「そうですか…。僕の頭では、日本語を完璧に理解する事は出来なかったですよね」

「いえ、そこではなく…。

貴方の身体の負傷箇所と記憶の方が…。

身体的には、心臓機能の低下傾向に

内臓の欠落など、重度の障害に加え、

記憶が6ヶ月前から欠落されていらっしゃる。貴方はとても動ける状態では…」


「心臓機能の低下は病気で、3年生きれるかわからないと言われていました。その宣告の帰りに交通事故に遭い、家族全員を失いその現実を僕の体が耐えることが出来なかったため、脳が記憶を欠落させる解離性障害を発症した、と聞いています」


僕は立ち上がりながら、記憶にない現実を語る。他人の話しと言われても信じる様な話

だが実際に自分の事だと理解するのにかなりの時間を要した。

今は祖父母に引き取られ落ち着いた生活を

している。


「僕はこんな事では死んでられないんです。

たとえ身体が悲鳴を上げようとも

幸せになれと言われました。

そのために何をすればいいのか、

まだ見つけられてませんがあと残りの30ヶ月で僕は絶対に幸せにならないといけないんです。もう顔も思い出せない父との最後の約束ですから」


「そうですか…。私たちって仲間ですね!」

「えっ??」


「私も自分の母星が戦争で荒廃し、将来を危惧した両親が知的生命体の存在が確認されていたこの地球に運んでくれたんです。何光年も離れたここまできて、私も1人ぽっちですが、両親に幸せになれと言われました。だから私もこの星で幸せになってみせます!」


青く輝く彼女は、神秘的であり、けれどどこか脆く儚く見えた。

まるで自分を鏡を通して見ている様で、

彼女の事を助けてやりたくなる気持ちになった。


「シオリはさ、どこか住むとことかないよね?」

「はい…。この、アルカって乗り物の中で

過ごすつもりだったので」


「良かったら、俺の家来ない?

部屋ならたくさん余ってるし」


「いいんですか!?

けれどこんな時間に迷惑なのでは…」


「いいよいいよ。遠慮なんてするなよ。

1人ぽっち同士助け合おうぜ!」


「ありがとう!結弦!」

「おう!よろしくなシオリ!」


「はい!それじゃあ家に行きますか!

結弦さんのいえはどこですか?」



「この山の裏側にある、麓のでかい家」

「わかりました。少し飛ぶから捕まっててください」


「はい?」

「この星は重力がとても弱いのよ。

お姉さん力持ちなんだから!」


「えっと……。それじゃあよろしく?」

「はい!それじゃあ行きますよぉ〜」




次の瞬間、山頂が遥か下に見えた。

高所による恐怖で、喉が絶叫する。


「家ってあれですかぁ〜?」

「そうぉぉおーー!!!!」

マジで死ぬ!早く下ろして!!」


「……。今気づいたんですけど、

着地するの田んぼでいいですか?」

「そーゆーの先考えようねー!!!!!!」


その30秒後に見事に田んぼに不時着し、

田んぼにまた一つ小さな

クレーターができた。



「あははははー!面白かったね!!!」

「あはははー、じゃねーよ!

死ぬかと思ったわ!!!」


「ささっ!泥まみれになってしまった事だし。早く家に行きましょう!」

「う……うん」


「結弦さん?どうしたんですか?」


本当に今更なのだが

女子を家に連れて行くイベントなど

経験したことがなく祖父母になんて言えばいいのかわからないのだ。


「まさか結弦さん、緊張なさってるんですか?」

「ま、まさか!!」

思わず裏返った声に対して、

ニヤニヤしながら

「さすが!結弦さんのような紳士な方の

両親に紹介していただけるなんて!

もっと綺麗にしとけば良かったわ」


「なっっ!!何変なこと言ってんだよ!

ただの居候だろ!」

「乙女に俺の家に来いよとか

そーゆーことでしょ?」

上目遣いで真剣な顔で言ってくる。


泥だらけとはいえやはり綺麗だ。

異星人ってのは

みんなこんなに綺麗なのだろうか。


「はいはい。勝手に言っとけ!」

「つれないなぁ〜」

そう言いながらも笑顔の花を咲かせ

ちょこちょこ付いてくるのも

また可愛らしい。


それより落ち着け俺!

いきなり、泥だらけの見知らぬ人を泊まらしてと言っても、祖父母も了承しないだろう。

それなりの理由を考えなければ。



・宇宙人の友達泊めてくれない?

また脳がおかしくなったと思われる。


・コスプレ好きの友達泊めてくれない?

その泥だらけは

一体何のコスプレなんだい?

そもそも夜中に何しとるんだ!


・隕石で家が壊れたから

ここに住みたいらしいけどいいかな?

よしこれで行こう!!


考えているうちに着いた我が家の玄関を

覚悟を決めて、開ける。

「ただいまー」

「結弦ちゃん!大丈夫だったのって

なにその格好!!泥だらけじゃない!

それにその方は……?」


「山火事は心配ないよ。

えっと泥だらけなのはいろいろあってね…。

それでこいつは……」


シオリも少し緊張した面立ちで

自分の横に立っている。

僕から言い出したことだ。

何としてでも両親を納得させないと。

そう思った時には叫んでいた。


「こいつは俺の嫁です

これから一緒に住むからよろしく」


「………え、えぇー!!!!!

結弦ちゃんおめでとう!!!!」

祖母は1人で大はしゃぎしている。


「バカ……。」

当の仮の嫁は泥だらけの顔を

青い髪とは違って耳まで赤くしながら

笑顔の花を咲かせていた。

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