6.
「貴史にとって初めてのお友達である貴方にこの知らせを書くのはつらい事ですが、三月十日午前七時半に貴史が逝去致しました。今まで貴史と仲良くしてくれてありがとう。きっと天国であの子も喜んでいることでしょう。」
だいたいこんな内容だった。彼は最期まで俺の受験結果を気にしていたらしい。自分はそれどころじゃなかっただろうに――俺はしばらく部屋で茫然としていた。センター試験の後返事を書かなかった事を、今更のように後悔した。
初めての合格通知は、それから十日後に届いた。彼からの手紙が初めて来た日から、ちょうど一年が経っていた。
俺は便箋の最後の一枚を手に取った。後期で受けた大学に合格したことを――彼に書いて送りたかった、でも書けなかった合格の知らせを彼の母宛に書いた。天国へ召された貴史君にもよろしくお伝えくださいと書きながら、俺は泣いていた。俺が医者になることを心待ちにしていた彼はもういないけど、彼のおかげで今俺は合格通知を手にしている。俺は彼の母に返事を書いたその裏に、あの時書けなかった返事を書いた。
――貴史くんへ。
お返事書けなくて、本当にごめん。僕、大学に合格したよ。これで医者になるための勉強ができる。貴史くんの病気は治せなかったけど、同じような苦しみを抱えた患者さんを元気にしてやれる医者になるから、だから、向こうからちゃんと見守っててくれよな。貴史くんのおかげで、僕は頑張れたんだ。本当にありがとう。どうか、安らかに眠ってください。さようなら――
翌週。桜が早くも八分咲きになっている。この部屋とも今日でお別れだ。俺は少ない荷物をまとめて、数年間暮らしたアパートを出た。
明日からは、彼のいた地での生活が始まる。
FIN.
Balloon 紅音さくら @aknsakura
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