5.

 結論から言うとセンター試験は失敗だった。現役でこの点数が取れていれば失敗とは言わないし、今までの中で一番いい点数だったが、浪人生の俺としては失敗だった。最後の最後まで、数学は克服できないままだった。得意科目の国語や英語でまともな点を取れたのに、理系科目がまた足を引っ張ってしまった。しかしいくら後悔したところで、取ってしまったものは仕方ない。俺は手紙の返事を後回しにして赤本を手に取った。センター試験失敗しましたなんて書けるわけがない。

 前期試験まではあっという間だった。一昨年も去年もセンターが終わってから二次試験まで随分長く感じたものだが、今年は少し慌ててしまうくらい、本当にあっという間に前期試験当日を迎えてしまった。

 手ごたえは決して悪くなかった。それでも俺宛に届いたのは不合格通知だった。不合格通知がこんなに悔しいものだと初めて知り、俺は初めて後期試験の勉強をした。一昨年までは適当な出願しかせず、去年は受験すらしなかった後期試験だが、今となっては最後のチャンス、捨てるわけにはいかない。俺が医者になるのを待っている人がいるんだ。受けもしないで諦めるわけにはいかなかった。

 後期試験は遠方の大学に出願して、泊まりがけで受験した。受け終わってから手ごたえがいいか悪いかを考えることはなかった。結果がどうあれ、今年度の受験はこれで終わりだ。面接試験が終わった瞬間、言いようもない虚脱感が一気に襲いかかってきた。

 何日かぶりにアパートに帰ると、郵便受けに手紙が入っていた。そういえば返事書いてなかったなと思って封筒の裏を見る。差出人は小倉姓の女性――いつか手紙を代筆してくれた、彼の母親の名前だ。なんだか胸騒ぎがしたが、きっと気のせいだと言い聞かせて夢中で封を切る。

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