オークは姫に恋をする
楠木黒猫きな粉
第1話 始まりの一言
僕は多分オークという種の中では異質なんだと思う。
いや、異質なんだけど別にオークを殺したいとか滅ぼしたいとかなんて思っていない。
なら僕は異常なのかもしれない。
別にどっちでもいいんだけどさ。だって孤立した事実は変わらないんだし。
まぁこれは僕が自分が異常だと理解してなかったのが悪かったんだ。
取り決められた『当たり前』に間違っていると言った自分は異常と扱われて当然だ。
それがどんなに非道な『当たり前』だったとしてもそれがこの場所のこの世界のこの種の決められた、決めつけられた『当たり前』なんだから。
今になっても思う。僕は異常だと、異質なんだと心の底から思っている。
こんな場所でこんなに死にそうになっても僕はたった一つの気持ちに意識を引っ張られる。
目の前の明確な死を僕は受け止めなければならないのかもしれない。大きな爪が僕を切り裂こうとしている。
とても怖いだろう。いや、怖いんだ。
死ぬのも怖い。失うのも怖い。消えるのも怖い。餌になるのも怖い。生きるのも怖い。
だけど……だけど……こんな異質な自分だからできることがあるのかもしれない。こんな異常な自分だから伝えられる事があるのかもしれない。
だから僕は雄叫びをあげる。喉が壊れたかもしれない。気にしてられるか。僕はオークだ。
オークがこんな魔神獣に勝てるわけがない。なら死ぬしかない。
でもただで死んでたまるか。
僕が生まれて初めて抱いた感情に任せて体は動く。
拙い人間の言葉で後ろで怯えている金色の少女に初めての気持ちを言葉にする。
「ボ……クハ……キミガ……ス…キ……ダ」
別に長い間一緒に居たわけではない。別に特別な出来事があったわけではない。
ただ少女が襲われているところに出くわして一目で惚れて今に至るだけだ。
そう特別な事なんて何もなかった。馬鹿なオークが魔神獣に挑んで少女を助けようとしているだけ。
馬鹿で異質で異常なオークだからこそできる人間に向けるはずのないほどの優しい笑顔を少女に向けて別れを告げる。
「イマ……スグニ……ニゲ……テ」
少女は走って逃げる。泣きながら何かを言っているけど僕には分からなかった。
けれどそれでよかった。聞き取れていたら僕は死ににいけないから。
すぐに少女は見えなくなった。
僕はボロボロの棍棒を構えて死ににいく。やるなら醜い位にあがいてやろう。できるだけ長く生きてやろう。
そう決意した僕はただ死にに行った。こうして僕の物語は始まった。
オークは姫に恋をする 楠木黒猫きな粉 @sepuroeleven
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