6本指のじんるい。
草詩
彼らは指が6本あった。
〇月1日。晴れ。
本日の観察業務は対象の道具の使い方を中心に見て行くこととなった。
対象は指の本数が多く、6本もあるため我々とは少々道具の使い方が違う。
どうやら6本目は我々でいうところの親指の対称として存在しているようで、物を掴むグリップ時や手足をついて地面に身体を支える時に有用のようだ。
ただ、その分6本目の指が根ざす部分は筋肉量が多くなっており、手の平が我々より二回りほど大きいようだ。
そのためかどうかはわからないが、我々のように握りを掴んで手首のスナップで動作させるというのが苦手な模様。しっかりと掴み取るといった力の動作は難なくこなしている個体が多いのだが、細かな作業や手首を使う作業は一部の器用なものに任されている。
〇月2日。曇り。
本日の観察業務は対象の運搬能力を中心に見て行くこととなった。
対象は指の本数が多く、6本もあるため片手で荷物を持つことを基本としている。
両の親指というべきか、太く力強い両端の2本と、それをささえる台座となる幅広な手の平によって、まるでクレーンのごとく運搬物を掴んでいる。
もちろん量を運ぶ時は下から支える我々と同じような動きをするのだが、所作やちょっとしたコップや弁当箱といったものの運搬時に、彼らが基本的にどう持つのが好きなのかが見て取れた。
〇月3日。雨。
喧嘩だ。本日は別の観察業務を予定していたが、偶然労働者層の喧嘩が勃発したため予定を取りやめた。
対象は指の本数が多く、6本もあって握力が強いため、掴みかかる動作を基本としている。
最初は掴んで引き下ろして組み伏せる、という動きをしていたのだが段々と興奮してきたのか拳を握って打ち下ろし始めていた。
特筆すべきは拳の作り方だろう。親指が1本しかない我々は他の指を握ってから親指を閉じて握り込み、硬い拳を絞るように作る。
だが彼らは親指が2本あるようなものなので、他の4本を握り込んでから両脇を閉じるように太い両端の指を畳んでいた。結果的に太い指がクロスしてしまい、そちら側が打撃時に引っかかれば怪我になるからだろうか、手の甲を使ってハンマーのように打ち下ろしている。
〇月4日。晴れ。
本日の観察業務は対象の文化面を中心に見て行くこととなった。
対象は指の本数が多く、6本もあるのだが……。
結論から言えば両端の指はあまり使わないようである。打楽器、弦楽器含め、雑多な娯楽趣味に関して、彼らは力強い両端の指を支えのように置くだけ、あるいは本体の保持に使っており、細かい作業や演奏などは残りの4本指で行っていた。
イメージとしては我々の手首に保持用のアームのような装備がついたような感じだろうか。筋肉量が多いせいか、あまり器用な使用方法には向かないようだった。
□月1日。晴れ時々曇り。
本日の観察業務は対象のコミュニケーションを中心に見て行くこととなった。
対象は指の本数が多く、6本もあるため握手という行為ができないようだ。
それでも文化的に手が象徴なのか、向い合せに手をかざし、お互いの指を絡めるような握り方であいさつを交わしている。
我々でいう所の恋人繋ぎのような接触の仕方である。正直見ていて気分の良いものではなかった。いくら親愛や敵意がないことを示すとはいえ、あそこまで濃厚な接触をする必要はないと思うのだが。
□月2日。
まずい見つかってしまった。6本手の奴らに。もうダメだ。
俺たち4本指が奴らに掴まったらどうなってしまうか。考えただけでも恐ろしい。あんな6本も指がある気持ちの悪い非効率な奴らのことだ。きっと野蛮な手で来るに違いないんだ。
どうか母星の人間にこの記録が届いてくれることを祈る。
6本指のじんるい。 草詩 @sousinagi
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