第22話 ティアの危機? ガルフが飛び込んだ先は……女子更衣室!?
翌日、ガルフとティアは疲れた身体を引き摺って、ジェラルドとの約束通り学校へと向かった。途中でジュリアがいつもの様に合流し、土曜日に二人して学校を休んだ事について色々と質問され、ティアがうっかりバードリバーに行っていたと口を滑らしたものだから、ジュリアは妙に興味津々で更に根掘り葉掘り聞いてきたのだが、これ以上疲れるのはごめんだとジュリアを置いてすたすたと逃げる様に早足で歩く二人だった。
この日は体育の授業があった。男子は教室で、女子は女子専用の更衣室で体操着に着替え、グラウンドに集合する事になっている。ここで真面目なガルフの性格が裏目に出た。女子と男子が分かれるという事は、ティアの警護が出来ないという事。彼は急いで着替えを済ませると、女子更衣室へと走った。
男の着替えは早いが、女の子の着替えは時間がかかる。おしゃれな服に着替えるので時間がかかるというのなら理解できるが、男と同じく体操着に着替えるだけなのに、どうしてこんなに時間がかかるのだろう? まあ、色々あるのだろうが、ガルフが女子更衣室に着いた時、中では女子達が着替えの真っ最中だった。まさか中を覗くわけにはいかないし、かと言って更衣室の前で構えているのも怪し過ぎる。ガルフは更衣室から少し離れたところでティアが出てくるのを待っていると、突如女子の悲鳴が上がった。
反射的に駆け出して、扉を蹴破り更衣室に飛び込んだガルフの目に映ったもの、それは大きな蛇に怯える下着姿の女子達の姿だった。その光景はまさに百花繚乱、女の子の柔肌を飾る色とりどりの下着が織り成すパラダイスだった。もちろんその中にはティアやジュリア、シェリーの顔も見える。竜も蛇も似た様な外観、竜の末裔であるドラゴニアの女の子が蛇を怖がるというのも奇妙な話だが、怖いものは怖いのだから仕方が無い。そもそもドラゴニアの民が竜であること自体、ガルフは知らない。
蛇に対してのものだった女子達の悲鳴は、乱入してきたガルフへの悲鳴へと変わった。だがその悲鳴が自分に対するモノだと気付いていないガルフは鬼気迫る表情で叫んだ。
「ティア様、ご無事で!?」
その一言で静まり返る更衣室。
「ガルフ!」
少し間を置いてティアの声が響いた。
「ティア様、ご無事ですか?」
その声に応じながらも何か違和感を感じるガルフ。ティアの声は、姫の危機に駆けつけた王子様の登場を喜ぶ声では無い。どちらかと言うと、いや、はっきり言って怒っている声だ。様子がおかしい。彼は臨戦態勢を解くと、彼女に尋ねた。
「ティア様……いかがなされたのですか?」
ティアは黙って蛇を指差した。ガルフは無言で蛇の尻尾を摘まみ上げると、そのまま更衣室を出た。扉を閉めた瞬間、また女子達の悲鳴が上がった。と同時に彼に声をかける男が一人。
「ガルフ君、女子更衣室に飛び込むとはなかなか大胆なことをやってくれますね」
ブレイザー先生が顔を引きつらせて立っていた。おそらく騒ぎを聞いて駆けつけたのだろう。
「ガルフ君、とりあえずその蛇を処分して、職員室に行きましょうか」
職員室へ連行されたガルフはブレイザーの前でうなだれ、ブレイザーは苦い顔をしている。
「まあ、事情はだいたい察してますから処分はしませんけど……校内ではティア君の警護の事は忘れろって言ったでしょう?」
「……すみません」
ただひたすら謝るしか無いガルフ。ブレイザーはガルフが女子更衣室に乱入した事では無く『校内では警護の事を忘れる』という約束を守らなかった事について少し説教して、ガルフを授業に戻らせた。
既に授業は始まっている。ブレイザーから開放されたガルフはグラウンドへと急いだ。
今日の体育は走り幅跳び。助走をつけて砂場に向かってジャンプ、跳んだ距離を競うアレである。二人ずつ順番に跳んでいくので、順番待ちの間は他人が跳ぶのを評価したり、好き勝手に喋ったりしている。そして、かわいい女の子が跳ぶ時は当然、男子の注目が集まる。
女子達はと言うと、ガルフの更衣室乱入の話で持ち切りだった。
「ガルフ君、ちょっとカッコ良かったじゃない?」
「『ティア様、ご無事ですか?』なんてセリフ、初めてリアルに聞いたわよ」
「まさに王子様、いえ、騎士様ってトコね。早く私にも王子様が現れないかなぁ」
意外と肯定的な意見が多い様だ。話題にも上がっている『ティア様、ご無事ですか?』というセリフと躊躇すること無く扉を蹴破った思い切りの良さ、そしてなんと言ってもガルフのかわいい顔が効いているのだろう。俗に言う『ただしイケメンに限る』というヤツだ。
ガルフがグラウンドに着いた時、ちょうどティアが助走のスタート地点に立っていた。隣にはジュリアの姿が。どうやら跳ぶ順番は特に決められはいない様だ。スタートの笛の合図で同時に駆け出す二人。もちろん走り幅跳びに速さは関係無い。しかしこの二人、妙なライバル意識でもあるのだろうか? やけに走り方に気合が入っている。ジュリアはその見事なボリュームを誇る胸が上へ下へと揺れて走り辛いのか、ほんの少しだけティアの方が早く跳んだ。続いてジュリアが跳んだ時にはティアは既に着地していた。しかし残念な事にお尻を後ろに着いてしまい飛距離は彼女の胸と同様少し残念なものになってしまった。ジュリアは見事着地にも成功、結構良い成績を付けてもらえるであろう距離を跳んで上機嫌だ。
「ティア、今日は私の勝ちね」
「ちぇっ、走るのは私の方が速かったのに……」
『今日は』という事はこの二人、事あるごとに勝負でもしているのだろうか? ジュリアは更にティアを挑発するかの様に言う。
「駆けっこじゃ無いんだから速さは関係ないわよ。それにしても見事な着地だったわね」
失敗して尻もちを着いてしまった事を突っ込まれたティアは、お尻に付いた砂を払いながら悔し紛れの持論を展開する。
「私の強力なジャンプ力にデリケートな上半身がついていけなくて、重心が後ろにいっちゃったのよね」
事実、足が着地した場所はティアの方が遠かった。つまり、着地に成功していればティアの勝ちだったのだ。しかしジュリアはティアの持論を覆す様な事を言い出した。
「ふうっ、胸が大きいのも困りものよね。走りでは遅れを取っちゃったし、でも、この胸の慣性が前に出る推進力となってくれるから、後ろにコケちゃうなんて私にはありえないもんね」
見事な胸を付き出す仕草のジュリアに男子達の目が釘付けになった。どうやらこのクラスは巨乳派が多数を占める様だ。口惜しそうなティアだったが、ガルフがグラウンドに現れたことに気付き、彼に向かって大きく手を振った。
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