第21話 ドラゴニアへ ~ガルフの想いとティアの想い~

「大丈夫?」と「私は大丈夫。ガルフこそ疲れてない?」を難度も繰り返しただろうか? いつしかティアはガルフの腕の中で眠りに落ちてしまっていた。


《ティア、やっぱりかわいいよな》


 ガルフは無防備に眠るティアの寝顔を見て、あらためて思った。自分の為に王女自らスープを作って待っているという優しさも持ち合わせており、さっきの町ではガルフに恥をかかせない為にといった心遣いも見せてくれた。彼女は『自分が王女だから言い寄ってくるだけ』と言うが、絶対にそんな事は無いだろう。むしろティアが王女だから指を咥えて見てる事しか出来ない男の方が多いのではないか? そう考えた時、ガルフは一つの結論に達した。それは彼女に惹かれている彼にとって大きな危惧となるものだった。


《ティアには好きな男がいないのか?》


 彼女はあの時、凄く寂しそうな顔をしていた。その理由はティアが好きな男がいるが、その男は彼女が王女だということに恐れをなして彼女の想いを受け入れられない……という事も考えられるのではないだろうか? そんな考えがガルフの頭を過る。


《バードリバーの王子がドラゴニアの王女に恋するなんて、小鳥が竜に恋する様なものだ。それにティアはザーガイから助けてもらったお礼に親切にしてくれてるんだ。バカな事を考えちゃダメだ》


 ガルフは自分に言い聞かせる様に呟くと、眠っているティアを起こさない様に気を付けつつドラゴニアへと急いだ。


 日が傾いた頃、二人はドラゴニアの城の門の前に舞い降りた。王女と一緒なのだから門の前でなく、中庭にでも降りれば良さそうなものだが、ガルフは律儀にもそうしようとはしなかった。この数日でガルフは何度この場所に降り立っただろう、さすがに門番の衛兵も慣れた様で「ガルフ様、お帰りなさい」とか「久し振りの祖国はいかがでしたか?」などと普通に挨拶をしてきた。ガルフは右手の人差し指を口元に持って行って……と言うよりティアを抱いたまま右手の人差し指を伸ばし、口を近付けて「静かに」とジェスチャーで伝えた。彼の腕の中ではティアがまだ眠っていたのだ。

 城内を歩いているとデュークがガルフに気付き、近寄ってきた。彼はガルフの腕の中でティアが眠っているのを見て目を細めた。

「ティア様、幸せそうな顔してますね」

 ガルフの腕の中はそんなに居心地が良いのだろうか? 彼女は起きる気配が全く無い。

「部屋に運んであげたいのですが、一人では何ですのでご同行願えますか? 彼女を寝かせたらすぐにジェラルド様のところに報告に行きますので」

 ガルフの頼みをデュークは快く受け入れ、ティアの部屋へと二人、いや眠っているティアも入れて三人で向い、デュークが彼女の部屋の扉を開ける。ガルフがティアをベッドに下ろそうとすると彼女の目が開いた。

「あっ、ごめん。起こしちゃったかな?」

 謝るガルフにティアは答えた。

「私こそ寝ちゃっててごめんなさい。ガルフは頑張って飛んでくれてたのに」

 ガルフは彼女をベッドに寝かせ、「大丈夫だよ」と返した後、大きく伸びをして言った。

「じゃあジェラルド様に報告してくるからティアはゆっくりしててね。母さんの話もしないといけないしね」

「では、私も参りましょう」

 ガルフとデュークは部屋を出て行った。一人残されたティアはぽつりと呟いた。


《もうちょっとガルフの腕の中で寝てたかったな……》


 ガルフが無事戻った事と、母シルフィがドラゴニアを訪れる件を報告するとジェラルドは大きく頷き、デュークは「そういう風に予め言っていただけるとありがたいですね」と安堵の言葉を漏らした。

「……すみません、父はいつも突然で……」

 デュークの言葉に反応してガルフが小さくなって詫びを入れた。考えてみればガルフが初めてジェラルドに会ったのもティアの手引きがあったとは言え、いきなりの事だった。

「い、いえ、ガルフ様、そんなつもりでは。ただ、前もって言っていただければ歓待の準備に時間がかけられるというだけで、他意は……」

 うっかり失言してしまったと、珍しく慌てるデューク。ガルフは「わかってますよ」と、くすりと笑った。

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