第12話 転入生ガルフ、そしてお約束の展開。
教室に入ったガルフを迎えたのは、突然の転入生に興味津々の生徒達、もちろんその中には満面の笑みで手を振っているティアの顔もあった。
お約束の自己紹介の後、これもお約束と言える一番後ろの席に着くガルフ。ただ、隣りの席は残念ながらティアでは無かった。かと言ってジュリアでも無い。銀髪に近いアッシュグレーの女の子が隣りの席でガルフに向かって「よろしく」とばかりに微笑んだ。ちなみにティアとジュリアは優等生らしく前の方の席だ。ジョセフは最後列の窓際。いわゆる『不良席』だ。やはりブレイザーの言う『どこかの貴族のバカ息子』はジョセフの事なのだろう。偉そうにふんぞり返って座っている。彼は転入生が昨日会ったティアの警護の人間だと気付いていない。あまり頭は良くないのだろう。
ホームルームが終わり、授業が始まった。ガルフは制服や筆記用具は準備してもらったものの、教科書は間に合わなかった様で教科書を持っていない。隣に見せてもらう事になったガルフは机をアッシュグレーの髪の女の子の机に引っ付ける。
「ゴメンね、迷惑かけて」
「ううん、大丈夫。ガルフ君だったっけ? 私、シェリー。よろしくね」
二人のそんな様子をティアは時折後ろに振り向いてはチラチラと窺っている。
授業が進み、教科書のページを捲る段になり、何気なく伸ばしたガルフの手とシェリーの手が触れた。
「あ……」
二人の口から同時に小さな声が出て、動きが止まる。そして慌てて手を引っ込めたのもほぼ同時。ガルフが目線をシェリーに移すと、彼女もまたガルフを見ていた。目と目が合って、何故か赤くなってしまう二人。転校生のお約束と言うヤツである。するとシェリーは教科書の隅っこに鉛筆を走らせ、ガルフに見せた。恋愛シミュレーションゲームならルート成立と言ったところだろうが、彼の目に映った文字はそんな甘いものでは無かった。
《ティアが凄い顔して見てるわよ》
ガルフが前の方を見ると、ティアが鉛筆を折れんばかりに握り締め、鬼の様な形相で睨んでいた。おそらく彼女は自分がガルフとそうなりたかったのだろう。シェリーは視界の隅にティアの様子を捉え、ガルフに伝えたのだった。
そんなこんなで午前中の授業が終わり、昼休みとなった。昼休みと言えばお弁当の時間。しかしガルフは弁当など持って来ていない。いや、彼にやる気が無いわけでは無い。なにしろ前日に『明日から学校行くわよ』と言われたものだから、そこまで頭が回らなかったのだ。
まあ、一食ぐらい抜いても死にはしないかとガルフが思った時、ティアが手招きをしている。ガルフが彼女の席に向かうと机が二つ引っ付けられ、椅子が三つ用意されていた。
《椅子が三つ?》
ガルフが状況を判断出来ずに突っ立っていると、ジュリアがやって来てその一つに座った。もう一つにはティアが座っているので空いている椅子は一つだけ。
「ガルフ君、早く座ったら」
ジュリアに促されて座ったガルフの前にティアがかわいらしい包みを置く。
「うわっ、これってお弁当だよね?」
思わず口に出したガルフ。それはそうだろう。この状況で包みの中身が弁当以外の物だったら嫌がらせ以外の何物でも無い。
「まあ、一人分作るのも二人分作るのも一緒だからね」
ここでツンデレの常套句がティアの口から飛び出した。ティアが弁当を作ってきてくれたというのか? 彼女の料理は以前スープを作ってもらって以来だ。しかし、現実はそこまで甘くは無かった。
「作ったのはお城のコックさんだけどね」
あっさり白状するティア。それはそうだろう、十六やそこらの女の子、それも王女が毎日弁当を作るはずが無い。
「あっ、もしかしてちょっとがっかりした? ティアの手作りのお弁当を期待した?」
ニヤニヤしながらジュリアが容赦無い突っ込みを入れて来る。それはガルフも男の子だから女の子の手作り弁当という魅惑の響きには弱い。しかし、目の前にあるのはお城のコックが作った弁当。美味しい事間違いなしである。しかし、美味しい物はお金さえ出せば食べられないことは無いが、女の子の手作り弁当はお金で買える物では無い。どっちを取るかと言われたらやはり……ガルフが堂々巡りに陥っていると、ティアの声が飛んだ。
「バカな事言ってないで早く食べるわよ」
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