第11話 ティアとガルフ、一緒に登校。そしてヤキモチ?
翌朝、ガルフは真新しい制服に身を包み、ティアと共に城を出た。並んで歩く二人の姿は知らない人の目には仲睦まじい高校生のカップルに映っただろう。いや、知らない人だけで無くティアを知っている人の目にもそう映った様で、あちこちでひそひそ話をしている人が見受けられる。
「おっはよ~!」
声をかけて来る女子生徒が一人。どうやらティアの友人の様だ。彼女はガルフの顔を覗き込むと、ティアに向かって聞いた。
「あれっ、こちらの方は?」
顔を覗き込んで『こちらの方は?』とは随分だが、それだけティアと親しいのだろう。だがティアは彼女にガルフの事を何と説明するのだろう?
《警護係……とは言わないよな。ティアは警護が大っぴらになるのを嫌がってたもの。まさかバードリバーの王子だとは言わないよな……》
ガルフがドキドキしているとティアが口を開いた。
「ああ、彼? 今日から転入する事になったガルフ君よ」
実にあっさりした紹介。
《それだけ?》
肩透かしを喰らったガルフ。本当に最低限の情報しか与えないとは。まあ、バードリバーの王子だと紹介されなかっただけ良かったと右手を差し出した。
「ガルフです。よろしく」
女子生徒はその手を握り返すと自分も名乗った。
「ジュリアって言います。よろしくね、ガルフ君」
ジュリアと名乗る少女はガルフの差し出した手を握るとにっこりと微笑んだ。
彼女もティアに負けず劣らずかなりの美少女である。腰まで伸ばした黒いストレートヘアにスリムな身体、それでいて胸はティアがかわいそうになるぐらいのボリュームを誇っている。ティアが『かわいい』タイプとすればジュリアは『綺麗』なタイプ。思わずガルフの顔も緩んでしまいそうになる。
二人が交わす握手を不機嫌そうなティアが引き裂く去に言った。
「あんた達いつまで手、握ってるのよ! 早く行かないと遅刻しちゃうじゃない!」
そしてスタスタと早足で歩き出した。慌てて後を追いかける二人。ジュリアはティアに並ぶと耳元で囁いた。
「なに、ティア、妬いてるの?」
「な、なに言ってるのよ、握手ぐらいでそんな……そもそも私とガルフはそんなんじゃ無いんだから」
しどろもどろなティアにジュリアはすました顔で言った。
「ふーん、じゃあ彼が新しいお守り役なのかな? デュークさんの姿が見えないし」
やはりデュークはティアの警護と言うよりお守りとして見られているらしい。ティアは不機嫌そうに言い返した。
「お守りとは何よ、お守りとは。せめて警護とか言いなさいよ」
しかしジュリアも負けてはいない。冷静かつ的確に言い返す。
「だって……警護ったって、あんたを襲おうなんて考える人、この国には居ないわよ」
王女であるティアを『あんた』扱いし、ズバズバと物を言う女子生徒ジュリア。彼女は侯爵家の一人娘だったりする。しかし、貴族の娘が王女にこんな口の聞き方をするなんて本来なら考えられない。世が世なら首を刎ねられてもおかしくないぐらいである。にもかかわらずティアが普通に話をしているところを見ると、二人はよほど仲が良いのだろう。念のために言っておくが、彼女が言う『襲う』とはティアを『王女として政治目的あるいは営利目的で拐う、または危害を加える』と言う意味であり、『女の子を性的欲求を満たすために襲う』と言う意味では無い。つまりそれだけドラゴニアの治安は安定しているという事だ。それにしてもジュリアの言う通りティアを襲う者などこの国には居ないとなると、ますます警護の必要性について疑問に思ってしまうガルフだった。
学校に着くとジュリアは教室へ、ティアとガルフは職員室へと向かった。担任教師のブレイザーにガルフを引き渡したティアは「じゃあ、後でね」と言葉を残して教室へ消えて行った。
「あなたがバードリバーの王子、ガルフ様ですか」
いきなりブレイザーが切り出した。さすがにガルフがバードリバーの王子だという事は学校の先生には言ってあるのだろう。となると、他の生徒はどうなのだろうか? 二~三ヶ月しかいないのだからやはり特別扱いされるんだろうかと考えるガルフ。
まあ、その方がティアの警護役として動きやすいからその方が良いかと思っていると、ブレイザーは真逆の事を言った。
「だからと言って特別扱いはしませんので。もちろんみんなにはガルフ様が王子だという事は伏せておきますから。しっかり勉学に勤しんで下さいね」
温厚そうな顔をして、なかなか厳しい事を言う教師だ。だが、それに続く言葉は更にガルフを驚かせた。
「君はティア君によほど気に入られてるみたいですね」
どういう事だ? ガルフがきょとんとしているとブレイザーは話を続ける。
「良い子ですよ、ティア君は。王女だというのに威張る事無く、それどころか、学校に居る時は自分が王女である事を忘れて下さいってね。どこかの貴族のバカ息子とは大違いです」
貴族のバカ息子と聞いてガルフは昨日会ったジョセフの顔を思い浮かべた。やはり彼は問題児なのだろう、先生も大変だなと思うガルフにブレイザーは尚も話続ける。
「そんな彼女がね、昨日言ってきたんですよ。一つだけ王女として我が儘を言わせて下さいってね」
『我が儘』とはガルフを転入させる事であろう事はガルフにも容易に想像出来た。
「君はティア君の警護と言う名目でこの学校に入るのですが、校内では何があっても私が生徒を、ティア君を守ります。だから君は校内では警護なんて事は忘れて生徒として学校生活を楽しんで下さいね。きっとティア君もそれを望んでいるでしょうから」
ブレイザーは優しい眼差しでガルフを見つめた。そして付け加えた。
「ティア君をよろしくお願いしますね。王女としてでは無く、友人として」
言い終わるとブレイザーは席を立ち、ガルフを従えて教室へと向かった。
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