第8話 ドラゴニア王とバードリバー王が謁見。話はどんどん大きくなってきた
夜が明け、ドラゴニアでは日常が始まろうとしていた。ティアはメアリーの部屋を訪れ、声をかける。
「それじゃメアリー、不安だろうけどできるだけ早く帰ってくるからね」
王女と言えどもティアは十六歳、学校へ行かなければならない。正直言って、彼女は今日は学校に行きたくなかった。友人達は昨日がティアの誕生日だと知っている。儀式の事を聞かれたら、どう答えれば良いのか……かと言って、学校を休むと余計に変に思われる。何かあったと思われるに違い無い。とりあえず儀式の事を聞かれたら適当にやり過ごすしか無い。ティアの心は重かった。
重い足取りで城門を出たティアの目の前に空から降りてきた人影が二つ。一つは体格の良い大人、もう一つは……待ち望んでいた顔が地面に横たわっている。
「ガルフ!」
まさかこんなに早く戻ってくるとは夢にも思っていなかったティアは思わず声をあげた。ガルフは彼女の声が聞こえたのだろう、ふらふらと立ち上がった。
「あなたがティア姫ですかな?」
彼女に声をかけたのはガルフでは無く、バードリバーの王だった。ティアは彼がバードリバーの王であり、ガルフの父であることを知らない。もちろん彼の身なりから身分の高い人だとは想像できたが、まさかバードリバーの王が護衛も付けずに王子と二人で他国に来るなんて思いもしない。
「ガルフとメアリーの父、コルドと申します。この度は、メアリーがお世話になりまして厚く御礼申し上げます」
自分の息子と同じぐらいの年齢の王女に丁寧に挨拶するバードリバーの王、コルド。思いがけない出会いにティアはまたもや声を上げてしまった。
「ガルフのお父様……って事は、バードリバーの王様!?」
「いえいえ、本日はバードリバーの王としてではなく、メアリーの父として参りました」
コルドは言うが、そんな事を言われても「はいそうですか」というわけにもいかない。ティアはコルドを丁重に城内へと迎え入れた。
城内を歩いていると、デュークが歩いてくるのが見えた。ティアから見えるということは、当然デュークからも見えるということで、学校に行くはずだったティアが戻ってきたのを見過ごす筈も無く、つかつかとデュークは彼女に向かって歩みを早めた。
「ティア様、学校に行かれた筈では……おや、ガルフ様、思ったよりお早いお着きですね」
ティアを叱責しようとしたが、ガルフに気付いたデュークはガルフに声をかけた。そして、一緒に居る男がバードリバーの王だと聞かされた途端顔色を変えた。
「いらっしゃるなら一言仰っていただければ……」
デュークは近くに居た衛兵を走らせ、歓待の準備と王への言伝を命じるとティアに囁いた。
「後は私にお任せください。さ、ティア様は早く学校へ」
しかしティアは強い口調で言い返す。
「何言ってるの! バードリバーの王と王子がいらしたのよ。ドラゴニア王女としては学校なんか行ってる場合じゃ無いでしょ!」
公私混同も甚だしいセリフをいけしゃあしゃあと言い放つティア。そしてきっぱりと言い切った。
「私、今日学校休む!」
王女の我が儘、いや、外交判断に、溜息を吐き、頭を抱えるしか無いデュークだった。
ティアに案内され、ガルフとコルドはメアリーが使わせてもらっている部屋へと向かった。扉を開けた途端、ベッドのメアリーが驚きの声をあげた。
「お父様!」
「メアリー!」
メアリーの声に思わずベッドに駆け寄るコルド。メアリーは、まさか王である父がいきなりやって来るとは思わなかったのだろう。驚いた顔のままで、ベッドにすがりつくコルドを見ている。すると、知らせを聞いた王ジェラルドがデュークと共に姿を現した。
「コルド様、我等が王にございます」
デュークがコルドにドラゴニアの王を紹介すると、ジェラルドは柔らかな物腰で名乗りを上げた。
「バードリバーの王コルド殿ですね。ジェラルド・ドラゴニア・シュナイゼルです。遠路遥々ようこそお出で下さいました」
コルドは片膝を着いて丁寧な礼の言葉を述べる。
「コルド・ウェンガーと申します。本来ならば先にご挨拶申し上げなければならないところをご息女の好意に甘えさせていただき、失礼致しております。この度はなんと御礼を申してよろしいのですやら……」
頭を下げるコルドにジェラルドが丁寧に言葉を返す。
「お顔をお上げ下さい。そもそもガルフ殿が娘を助けて下さった事から始まったご縁ですから」
今度はまたコルドが丁寧な答えを返す。
「いえいえ、ガルフなどティア殿を逃がしただけ。貴公のお心遣いに比べれば……」
しばらくこんなやりとりを続けた末、ジェラルドは穏やかな表情で微笑み、右手を差し出した。
「では、貸し借りは無しという事にしましょうか」
「貴公がそれでよろしければ」
コルドも笑顔でそれに応じ、固くその手を握った。
二人の王が握手を交わし、話が落ち着いたところでガルフが気になっていた点、メアリーが良くなるには具体的にどれぐらいかかるのかと質問すると、医師から二~三か月といったところだという回答があった。
《早くても二ヶ月もかかるのか》
ガルフは思った。同時にティアも思った。
《長くても三ヶ月しかガルフはいないんだ》
「そうですか。二人をよろしくお願い致します」
コルドが深々と頭を下げる。そして、頭を上げると同時にガルフの首根っこを掴むと、猫の子を扱う様にジェラルドの前に差し出した。
「コイツはその間、お好きな様にお使いください」
ガルフはそのぞんざいな扱いに一瞬ムッとしたが、すぐに笑顔で言った。
「はい、庭掃除でも何でもお申し付け下さい」
そんな事言われても困る。まさか他国の王子に庭掃除をさせるわけにはいかない。するとデュークが提案した。
「では、ティア様の警護に当たっていただくというのはいかがでしょうか。私では口煩いとよく言われますので」
ジェラルドも首を縦に振りながら賛同する。
「そうだな、ザーガイから守ってくれた実績もあるし、良いんじゃないか。ガルフ君、庭掃除よりはよっぽど良いだろう?」
ほとんど一方的に決められたティアは顔を赤くしながら「他国の王子をそんな事に使うべきではない、ガルフは貴賓として扱うべきだ」と反論したが、当人の父親が愉快そうに笑いながら「こき使ってやって下さい」などと言い出した上に当の本人までもがやる気なものだからどうしようも無かった。
「ではガルフ殿、ティア様をよろしくお願いします」
デュークの言葉に対し、ガルフは答えた。
「はい、この生命懸けてお守りしてみせます」
単に意気込みを示す言葉なのだろうが、取りようによっては意味深な言葉にも思える。ティアの赤い顔は更に真っ赤に染まった。
話がまとまり、コルドはバードリバーに帰っていった。彼は帰り際、メアリーに「また顔を見に来るから」と言ったところ、「もう来なくって大丈夫」と言われた事にショックを受けていた様だ。もちろんメアリーとしては王として忙しい父を気遣っての言葉なのだが……父親は娘に弱いと言うのはどこの国でも同じなのだろう。
こうして妹が療養している期間、ティアの警護に付く事と言う名目でドラゴニアに滞在することになったガルフ。それにしてもジェラルド、娘が好意をもっているであろう他国の王子を城に置くとは。もしかすると彼はドラゴニアとバードリバーを姻戚関係にでもしようと考えているのだろうか? それとも二人を人質にしてバードリバーに攻め込もうとでもしようと言うのか? いや、それは無い。領地とするにはバードリバーは遠過ぎる。では、バードリバーに貸しを作っておこうと? それも無かろう。でなければコルドに「貸し借りは無し」とは言わない筈。そもそもバードリバーよりもドラゴニアの方が遥かに豊かな国である。となると純然たる好意なのだろうか? 彼の思惑はいったい?
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