第7話 メアリーはドラゴニアで療養することに。ガルフはどうする? 

 医師の説明によると、メアリーの身体から毒を抜き、健康を取り戻すには時間をかけないといけないらしい。そうなるとメアリーをバードリバーに連れて帰って療養させるべきなのだろうとガルフが考えていると扉が開き、男が入ってきた。

「診察は終わったかね?」

 ジェラルドが絶妙なタイミングで現れたのだった。

 医師が王に結果を報告すると、少し考えた後ジェラルドはガルフに向かって言った。

「妹さんの事はまかせてくれたまえ。ドラゴニアでゆっくり療養させてあげると良い」

 ジェラルドの言葉を聞いて明るい顔になったガルフ。しかし、メアリーを一人ドラゴニアに残すというのは心配だ。

「私のことなら心配しなくって良いよ」

 また顔を固くしたガルフを安心させる様にメアリーは言うが、ガルフの表情は固いまま。

「大丈夫だって。私もいるんだからメアリーに寂しい思いはさせないわよ」

 ティアも言うが、やはり心配なものは心配である。出来るだけ顔を見に来るとしても、朝バードリバーを出てドラゴニアに着くのは夕方。顔を見て、少し話をしてすぐに帰ってもバードリバーに帰り着くのは真夜中になってしまう。一日二日ならともかく、そんな日が何日も続くとさすがに身体がもたないだろう。悩むガルフにジェラルドが優しく声をかけた。

「妹さんを一人残すのは心配かな? 本当に優しいお兄さんだね。それなら君も一緒にというのはどうだろう?」

 メアリーの療養期間中、ガルフもドラゴニアで過ごす。思ってもみない展開にティアの胸の鼓動が高鳴った。そんなティアを横目で見ながらデュークがガルフに進言する。

「お疲れでしょうが、一度バードリバーに帰ってお父上にお伺いを立てていただけますか? お二人がなかなか戻らないとなると心配なさるでしょうから」

 デュークの言うのももっともである。王子と王女が他国に行って消息不明になったとなると下手すれば戦争にまで発展してしまいかねない。また、彼はもう一つ気になっていた点についても付け加えた。

「大臣とやらの動きに気を付ける事もお父様にお伝え下さいね」

 メアリーをドラゴニアに連れて行った事を大臣はまだ知らない筈。それを知ると大臣は姿をくらますか、あるいは暴挙に出るであろう事は予想に難くない。取り返しの付かない事態になる前に手を打たなければ……ガルフは一旦バードリバーに帰る事にした。


「では、できるだけ早く戻ってきます。メアリーをよろしくお願いします」

 飛び立とうとするガルフを心細そうに見送るメアリーに、ティアが元気付ける様に言う。

「大丈夫、すぐ戻ってくるわよ。あなたを連れて来た時だってそうだったもの」

 メアリーに言いながら、ティアは自分にも言い聞かせていたのだった。


 ガルフがバードリバーに着いたのは真夜中。眠っていた両親、つまり王と王妃を起して話をしたところ、王は即座に答えた。

「わかった。では私もドラゴニアの王にご挨拶に行くとしようか」

 バードリバーの王がドラゴニアの王に謁見すると言う。また一段と話が大きくなってしまったものである。ガルフが事前に連絡も無しにいきなりはマズいのではないかと言うが、父は聞く耳を持たない。さっさと身支度を整えたバードリバーの王は今にも飛び立たんばかりの勢いだったが、ガルフは大切な事を言い忘れていた。大臣に関する件である。それを話したところ、王はガルフの母でもある妻に何やら耳打ちした。

「さて、では行こうか」

 あまりにもあっさりした対応に驚くガルフ。

「えっ、それだけ? もっといろいろあるんじゃないの? 親衛隊を呼んで警備を固めるとかメアリーが飲んでいた薬を調べさせるとか……」

 まくし立てるガルフに王は厳しい顔で言った。

「あと、大臣とメアリーを診ていた医者を呼び付けて締め上げるとかか?」

 ビンゴ。ガルフが一番はっきりさせたい事であり、事実であれば報いを受けさせねばならないと思っていた事だった。

「そんなモン、母ちゃんに任せときゃ良いんだよ。そんな事より早くメアリーに会いに……いや、ドラゴニアの王に礼を言いに行かなければ」

 王の口から父としての本音が出た様だ。しかも本音の部分は喋り方がべらんめえ調。おそらくこれが地なのだろう。要するに彼は原因がわかって喜ぶ娘の笑顔が見たいのだ。ここしばらくは苦しいのに無理して笑っている娘の顔しか見ていなかったのだから無理も無いが。しかし王妃、ガルフにとっては母親の事は心配ではないのか? 側近である大臣が背信行為を行っているかもしれないと言うのに。そんなガルフの思いを見透かしたかの様に王は言った。

「お前の母ちゃんはこの俺の嫁さんなんだぞ」

 当たり前だ。王は一体何を言いたいのだ? しかもまだ地が出たままだ。これでは王では無く、ただの下品なおっさんである。不審そうな顔をするガルフに王は涼しい顔で凄い事を吐き捨てる様に言った。

「裏切ったヤツの始末ぐらい出来ない女に俺の嫁が務まるかよ」


 バードリバーの王とガルフは共に空を駆けた。しかしガルフは既にバードリバーとドラゴニアを一睡もせず三度も行き来して疲れきっている。気力だけで着いて行こうとするが、どうしても遅れてしまう。どんどん重くなるガルフの身体。そろそろ限界かと思ったガルフの身体が急に軽くなった。王が回復魔法をかけてくれたのか? いや、風使いにはそんな魔法は使えない。離れていく息子を見かねた父が手助け、つまり二人分の飛行を父は一人で行ったのだ。

 ガルフがティアやメアリーと一緒に飛んだ時は、しっかりと抱きかかえていなければ不可能だったが、父は手を触れる事もなくガルフを飛ばしている。もちろんガルフにも複数の物体を飛ばせる事はできるが、それはあくまで『吹き飛ばす』程度の事。自分が飛ぶのに併せて自分以外の者(あるいは物)を飛ばせるのは至難の技である。しかも、そのスピードもガルフが一人で飛ぶ時のそれを遥かに上回っている。しかも圧倒的な速度で飛んでいるのにも関わらず怖さを微塵も感じさせない。むしろ快適ですらあった。ガルフはいつしか眠りに落ちてしまった。バードリバーの王は、眠りに落ちた我が子に気付いてくすりと笑うと更にスピードを高めた。




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