第2話 急襲された二人、ガルフの戦い方とは……
「竜?」
ガルフが身構える。
「竜はあんな繁みで身を隠せる程小さくないわよ」
ティアが言ったと同時に小柄で醜悪なゴブリンの一種、ザーガイの群れが襲ってきた。ガルフは慌てることもなく身を躱し、背中の大剣を抜いたかと思うとティアを襲おうとした三匹をあっという間に切り伏せた。
「ザーガイか……ボクの戦い方を見せてあげるよ」
剣を構え直すガルフ。低い姿勢で唸るザーガイ。
「1・2・3・4・5・6匹か、ちょっと多いな。ま、なんとかなるか。」
ガルフは剣を振り上げ、ザーガイに飛びかかった。着地と同時に一刀両断するかの様に見えたその瞬間、一迅の風が少年の身体をティアの元へと運ぶ。そして、彼女はガルフに抱きかかえられ空高く舞った。
「あなた、風使い?」
突然の出来事に驚くティアの眼下ではザーガイがギャーギャー吠えているが、この高さでは手も足も出せない。
「ああ。この能力を使えば竜相手でもなんとかなるだろ?」
ガルフはそのまま風に乗ってその場を離脱。早い話が逃げ出した。
「これがボクの戦い方。殺生は最小限に抑えたい。その為だったら逃げも隠れもするよ。たとえ臆病者と言われてもね」
「へえ、優しいんだね。でも、竜だって……」
ガルフがザーガイに見舞った最初の一刀は見事の一言に尽きる。これだけの腕を持ちながらも彼は殺生を最小限に抑えたいと言う。ティアはガルフに好感を覚えたが、竜はザーガイとはわけが違う。心配して言った彼女の言葉にガルフはあっさり答えた。
「竜だって飛べるのは解ってる。逃げきれるか、捕まって殺されるか……やってみるしかないよ」
「そっか……どうしてもやるつもりなんだ……」
「ああ。妹の為だから」
風に乗ること数分、二人はドラゴニアの街の中心部へと近付いていた。大きな城が見えるとティアはそれを指差した。
「あっ、あそこが私の家よ」
「あそこって……お城じゃないか」
「何か問題でも?」
彼女は城に住んでいると言う。という事は……ガルフの頭はフル回転するまでも無い。結論はすぐに出た。
「君、ドラゴニアのお姫様?」
「うん、そういえば名前言ってなかったわね。私、ティア。ドラゴニア王ジェラルドの長女なの。よろしくね、バードリバーの王子様」
ティアの悪戯っぽい笑顔に吸い込まれそうになりながらもガルフは呆れた声で言った。
「なるほど。ボクが王子だって言っても驚かない訳だ。でも、人のコトお供も付けずにって言ってたくせに自分だって……」
「あの水辺は庭みたいなものだもの」
「『庭みたいなもの』って、ザーガイに襲われたじゃないか……いや、しかしどうして一人で水浴びなんか?」
「明日は私の十六歳の誕生日なの。ドラゴニアでは十六歳になるとね……」
水浴びという言葉を口にしたガルフの頭にさっき見たティアの美しい肢体が思い浮かび、彼の顔が少し赤くなったが彼女は気付いていない様だ。
「十六歳になると?」
ガルフが言葉を繰り返すとティアは少し言葉に詰まり、濁す様な言い方をした。
「……儀式があるの。その為に身体を清めてたのよ」
「でも、女の子が一人で湖で水浴びなんて危ないだろ」
「水浴びなのよ。裸を見られたくないもの。あなたには見られちゃったけど……ああ、迂闊だったわ。旦那様にしか見せないつもりだったのに……」
恥ずかしそうなティア。ガルフは『女の人を護衛に付けたら良いじゃないか』という言葉を飲み込んで言った。
「ごめんね。じゃあ責任取って結婚しようか? ドラゴニアの王女とバードリバーの王子が一緒になるってのも良いんじゃない?」
「な、何言ってるのよ!」
顔を真っ赤にしてじたばたするティア。
「うわっ危ない!」
ティアを落としそうになり、思わずガルフの腕に力が入る。その拍子に二人の顔が近付き、目と目が合った。
《あ、意外とかわいい顔してるじゃない。結構好みかも……》
抱きかかえられて宙を舞う事による吊り橋効果もあったのかもしれない。ちょっとドキっとするティア。そうと悟られない様に悪戯っぽく笑って言った。
「あなたが私に見合うだけの人だったらね」
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