第3話 バードリバー王子ガルフがドラゴニア王ジェラルドと対面。これって凄い事じゃ……?

 これが竜の王女ティアと風使いの王子ガルフの出会いだった。ティアに言われるまま城門の前にガルフが降り立つと、当然の様に衛兵が立ちはだかる。

「何者だ? いきなり空から現れおって。話に聞く南の国の風使いと言うヤツか?」

 いきり立つ衛兵達。だが、ガルフが抱きかかえている少女を見るなり態度が変わった。

「ティア様!」

「みんな、御苦労様。この人は大丈夫よ。さ、道を空けてあげて」

 ティアの言葉に衛兵達は直立不動となり道を開ける。彼女は軽く衛兵に会釈するとガルフの手を取った。

「ありがとう。さっ行きましょ」

「行きましょって、ドコに?」

「決まってるじゃない。お父様のところよ」

「お父様って……王様のところ!?」

 思わず声を上げてしまうガルフ。無理も無い、ティアにとっては単に助け手もらったお礼に父に会わせるだけなのだが、その父というのはドラゴニアの王である。対してガルフはバードリバーの王子。そんな二人が顔を合わせるという事は、公式な訪問では無いとは言え、一歩間違えれば個人の問題では済まされない。これは国家レベルの一大事である。

「ええ。何か問題でも?」

 あっさり答えるティアにガルフは事の重大さを説明するが、彼女は笑顔で気楽に言う。

「うーん、そう言われればそうだけど、今回はバードリバーの王子ガルフじゃあなくて私をザーガイから助けてくれた男の子ガルフとしてね」

「そんな簡単なモノじゃ無いと思うんだけどなぁ……」

「いいからいいから」

 ティアは渋るガルフを引っ張る様に城内を進み、重厚な扉の前で立ち止まる。

「ココが父の部屋よ」

 ティアは言いながら扉をノックし、部屋の主、つまり王に声をかける。娘の声を聞き、扉の向こうから部屋に入るのを許可する声が聞こえた。ガルフに緊張が走る。そんなガルフの事など気にしないかの様にティアはさっさと扉を開け、部屋に入った。


「お父様」

「ティア、どうしたね?」

 父が娘にかける優しい声。しかし、ガルフの存在に気付き、声に凄みが加わった。無理も無い。娘がいきなり男を連れてきたのだから。

「その男は?」

 ティアは父である王ジェラルドにガルフがバードリバーの王子である事、ザーガイから助けてもらった事を話した。もちろんガルフが竜の逆鱗を手に入れにドラゴニアに来たという事は秘密にしておいた。王は穏やかな声でガルフにティアを助けてもらった礼を述べたが、彼の背中の大きな剣を見に気付き、低い声で言った。

「それはドラゴンスレイヤーだな。ドラゴニアでそんな物を持っているのはいただけないな」

 前述の通り、ドラゴニアでは竜を傷付ける事は固く禁止されている。表向きは希少種である竜の保護という事になっているが、本当の理由は言うまでもあるまい。もちろんガルフが知っているのは表向きの理由だけである。

 ガルフは思い切って王に事情を説明し、願いを口にした。

「一度だけで結構です。竜を傷付ける許可をいただけませんでしょうか?」

「ちょ……何を言い出すの!?」

 ティアはガルフの一言に倒れそうになった。せっかくその事については黙っていたというのにそれが台無しである。下手すれば王である父の怒りを買う事になってしまう。


「娘を救ってくれたとはいえ、それは出来ん」

 当然の事ながらジェラルドの口から許しの言葉は出なかった。ただ、事情を聞かされていた為だろう、怒りを買うのだけは避けられたのが幸いだった。

「何故です?」

 食い下がるガルフをジェラルドは一言で切り捨てる。

「ここがドラゴニアだからだ」

 実にシンプルな理由。ドラゴニアの国の成り立ちを知っている者にとっては十分な理由なのだが、それを知らないガルフには納得出来る理由であるわけが無い。

「妹の生命が掛かってるんです。人間の生命より竜の保護の方が大事なんですか?」

 ガルフは必死になって食い下がったが、ジェラルドは重い顔で諭す様に言った。

「バードリバーの王子よ。君の言いたいことは解る。だが、君も知っての通り竜は人間の言葉を解する。話をすることができるのだ。姿形こそ違うが、我々にとって竜は人間と同じ友なのだよ」

 竜が人間と同じ友であると言われても、ガルフには理解出来るわけが無い。まさか竜がドラゴニアの民そのものだとは夢にも思っていないのだから。やはり処罰を覚悟の上で竜に挑むしか無いのか? 落胆するガルフにジェラルドは言葉をかける。

「だがバードリバーの王子よ、少し考えてみなさい」

 ガルフの視線がジェラルドに向けられる。

「逆の立場で考えてみなさい。君が竜に呪いをかけたとしよう。君の呪いを解く為に竜が人間の身体の一部を捧げたら、呪いは解けるどころか、むしろ君の怒りは増幅するのではないかね?」

 言われてみればその通りである。呪いと言うのは相手が最も忌避する様な行為でしか解けない様にするのが効果的だ。となると呪いを解く媒介となるのは、かけた方では無く、かけられた方に関する物と考える方が理にかなっている。


「ボクの身体の一部を使って妹を助けられるのなら、目でも心臓でも何でも取り出すのですけどね……」

 悲しそうに呟いたガルフ。妹の為なら生命も惜しくない。そんな彼の言葉に心を打たれたのだろう、ジェラルドは優しく言った。

「妹思いのお兄さんだね、気に入ったよ。ガルフ君と言ったね、一度、妹さんをここに連れてきてはどうかね? 娘を助けてもらった礼とは言わないが、竜に関することならドラゴニアで解らないことはまず無い。解決策が見つかるかもしれないよ」

「本当ですか! ありがとうございます!」

 思ってもみないジェラルドの言葉にガルフは目を輝かせて答えた。そして、背中のドラゴンキラーを王に差し出した。

「私はもう竜を傷付ける様な事はしないと誓います。その証としてこの剣をジェラルド公に献上します」

 ジェラルドはガルフからドラゴンキラーをしっかりと受け取ると満足そうに微笑んだ。

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