第7話 1月26日 記憶そのⅡ

 大きな自分の溜息で目が覚めた。

 真っ暗な部屋の中、確かに耕祐は布団の中に横たわっていた。

 枕もとのデジタル時計に目をやると、3:30を表示している。

 やはり夢だった。

 今までのことが夢であると確信したが、夢であることに不安を抱いていたわけではないので安堵では無い、何か不思議な感覚がまとわりつく。

 確か、布団に入ったのが夜半過ぎだったので、実質ほとんど寝ていないことになるが、まったく睡眠不足という感じはしない。

 むしろ、この上なく寝覚めがいい。明晰夢を伴う睡眠とはそう言う物なのかも知れないと考えた。

 普段の起床時間よりはかなり早い、というか、寧ろ、極たまに就寝時間になる事も有るような時間だったが、耕祐は起き上がり、着替えながらぼんやりと夢のことを考えた。

 夢の中の母親は、まさに、耕祐が知っている母親そのものだった。

 考えてみれば当たり前だ。自分の夢なのである。

 自分の思考の中で造られた世界なのだから、自分にとってのリアルが再現されることはなんら不思議なことではないし、寧ろ、それが当然だ。

 多分、あの後、他の誰に電話を繋いだとしても、自分にとってのリアルが再現されたで有ろう事は間違いない。

 言ってみれば、あの世界の電話とは、手の込んだテレフォンサービスみたいな物と解釈すれば良いのかも知れない。

 ならば、あの世界で電話を掛けることはあまり意味のないことだろう。


「もう、電話は辞めとくか」


 そう思って、はっとした。

(自分は、また、あの夢が見れる物と考えている)

 確かに、たった今見たあの夢は、昨日の夢の続きだった。

 だが、同じ夢を見る可能性など無いことの方が当たり前だし、それを二度三度と見続けることなど無いと断言することの方が正しいだろう。

 今回の事は、なんだかよく分からないが、悪くはない体験をした。

そんな風に考えるしか無い。

 夢だと割り切ることに対しては、そんなに難しいことではなかったが、ただひとつ。

 リンが自分を連れて行こうとした場所。

 彼女が『きっとビックリする』と言っていた場所が何処だったのか……それを知る機会が永遠になくなってしまったと言う事だけは、ほんのちょっと心残りであった。



 気がつくと、スマホを握りしめて歩道に立っていた。

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Forbidden Lover 繋がったり繋がらなかったり 漆目人鳥 @naname

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