邪悪な世と不審な王室
俺の声で、
「
そして俺の姿を見ると、燕は涙を浮かべながら俺の縛りを解いた。
「腕に跡が...。」
「ん?...あぁ、こんなの平気だ。」
「
俺は自分の腕の跡をもう一つの腕できつく押さえつけた。
燕は、俺の声に縮こまっていた。
「..."飾り花"を燃やしてしまいなさい。」
「はい。...して、王は...?」
「発作で亡くなった。」
「...かしこまりました。」
"発作"という言葉は、暗殺成功の時のために燕と決めた暗号であった。
しかし、王を殺しただけの今...俺達がここにいるのはまずい。
王は朝には発見されてしまうだろう...いや、既に見つかったかもしれない。
俺は、髪飾りを外し、まだ崩すはずもない荷物を持った。
ガンッ...ガンガンッ...
そして、裏口の扉を引いた...が、びくともしなくなっていた。
「ッ...燕、表門を確認して。」
ガンッ...
「...謝那様...。」
心細く聞こえてきた燕の声に、俺は崩れ落ちるしかなかった。
こんなに飾られた部屋は、今の俺達にとってはただの監獄でしかない。
...死ぬ日を待てということか...ッ。
「...申し訳ありません。謝那様...。」
燕は今にも泣き出しそうな顔で俺の体を支えていた。
「お前は悪くない...俺が...俺が煌を潰していれば...ッ。」
「...燦様...。」
また呼ばれた名に、燕を見ると真っ青な顔にその声は今にも消え入りそうで、俺は燕を強く抱きしめ、朝を待った。
煌への憎しみの心をじりじりと燃やしながら。
あさげが届く声で俺はふと我に返った。
燕もその声にびくりと体を強ばらせた。
燕は武術に長けていても、根は女だ。どんなに男のなりをしても、死が目の前にあると言ったら緊張もするのだろう。
俺は平然とした声であさげの声に応えた。
すると、昨日までがっちりと閉じられていた扉はすんなりと外から開けられた。
俺はこれが最後の食事となるのかと息を吐いた。
「何を情けのない面構えをしている。」
「...ッ!?」
頭上から聞こえてきた図々しそうな聞き覚えのある声に、俺は顔を上げた。
そこには、
「...煌様...ッ、なぜこちらに...。」
後ろを見ると扉は既に閉ざされる瞬間だった。
「そなたがやけに早く果てたゆえ、「ッ!?」俺がわざわざ持ってきてやった迄だ。」
果てたッ!?...いや、まずやった覚えもない。
そしてあまりに大きな声に俺は口をあんぐりと開けるしかなかった。
「どうした。これが聞こえればお前の昨日の行いはすべてなかったことになろう。」
こいつは声量を落とすと...俺の失態をあざ笑うがごとく口角を上げた。
「...御慈悲でも与えていただいたつもりですか?白々しい...。」
「
俺の悪態に謝那はこれ以上は危険と思ったのか俺の福の裾を引っ張り首を横に降った。
「ほう...側付きは、状況がよくわかるようだな。」
「状況ですって?所詮死ぬ運命となった私にこれ以上、何を理解しろと言うのですか?」
「なんだ...理解はしていたのか。雄猿ではなく人間なのだな。」
「なッ...。」
俺が声に詰まると、煌は鼻で一笑いするとあさげを俺の前に置いた。
「食え。」
「...死ぬ者に食わせても勿体ないと思いませんか。」
「お前が死ぬか生きるかは俺が決めることだ。お前ごときに権限などやってない。」
「ッ...。」
ぐううううぅぅ...
つい腹に力が入ると、腹の虫が勢い良く部屋中にこだました。
「フッ、腹が減ってはこれからに耐えられんだろう。今のうちに食らっておけ。」
「...。」
「餌付けされたいか?」
煌は俺の前から匙をとって飯をすくい始めた。
「ッけ、結構です。」
慌てて遮ると、すくった飯を俺の口にぐいっと突っ込むと、さぞ満足そうに俺の部屋から出ていった。
「...謝那様だけでもお食べになってください。」
燕は俺の体が心配なのか、飯の上に菜ものを必死に乗っけてくれた。
「...すまぬ、燕...。...すまぬ...妹よ...。」
「...謝那様...。」
自ずと涙が滴り落ちて、飯を湿らせた。
掻き込むように済ませた飯のあと、王の死が部屋にも届いた。
俺と燕は平然とした顔で王の部屋に向かった。
王の部屋の前には既に
王様の死体は既に床ごと外に運び出されていた。
「...
煌は俺にいち早く気が付き、静かに手招きをした。
「ッ...王様...なんてこと...。」
俺は煌の横についてわざとらしく驚いて見せた。
「フッ、そなたが仕留めた獲物だな。」
「ッ!?」
思わず見上げると煌は俺にだけ聞こえるように話していたのか、ニヤリと口角をあげた。
...わざとだ...。煌はわざと俺の腸を煮え繰り返しているとしか思えない。
しかし今の俺は下唇を噛み締めるしかなかった。
昨日の夜から噛んでいたところからは、血がにじみ出てきていた。
俺は耐えられないとばかりにその場から振り返った。
すると、後ろから王妃様が足早に姿を現した。
「謝那妃、どうかしましたか?」
「...その...人の死んだ姿を見るのが初めてで...気分がすぐれなくなって。」
俺は血のにじむ唇を袖で覆って、吐き気を演じた。
「そうですか...では、急いで医官を呼びましょう。」
「...」
まずい...。
今呼ばれては、逃げ場を失ってしまう...。
俺は次の言葉を頭で巡らせていた。
「いえ、早く部屋に連れていきます。」
そう答えたのは、俺の横で薄ら笑いを浮かべていたはずの煌だった。
「...そうですか...体を大事になさい。」
「はい。」
俺は煌の腕に導かれて部屋へ行く道を急いだ。
王を恨んだ妃 上 ~復讐~ 木継 槐 @T-isinomori4263
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