4 reysi mxogos da isxurinas zersefma fo:risnxe.(人々がイシュリナス寺院の前に集まりだしています)
かなり際どいところだったが、イオマンテの反ノーヴァナス派の魔術師たちは、災厄をうまく使いこなし、自分たちの手を汚すことなく暗君を排除した。
それと同じことを、イシュリナシア王家や貴族の人間たちが考えても、おかしくはない。
今にして考えてみれば、ネス伯という国王に近い大貴族であるネスファーディスですら、結局、イシュリナス寺院には逆らえず、ヴァルサは殺されたのだ。
イシュリナス寺院の力が低下することは、イシュリナシア王家と王国にとって、決して悪いことばかりではなく、場合によってはむしろ好ましいことなのかもしれなかった。
リアメスにすれば、結果的にイシュリナシアの国力は弱まるので、これも悪い話ではない。
ナルハインの言っていた言葉も、決して間違ってはいないということだ。
この世界も、現代の地球と同様にさまざまな政治力学が働いている。
そのときだった。
また、頭痛に襲われた。
よりにもよって、こんなときにか。
せっかく、うまくいきかけているのに、ここでもしまた、リューンヴァスに体を奪い返されたら、面倒なことになる。
もはやいまの彼は、ただの正気を失った狂戦士なのだから。
まずい。
本格的に、頭痛がひどくなってくる。
このままでは危険だ。
せっかくここまできたのに、あともう少しで、イシュリナス寺院を叩き潰せるかもしれないのに。
だが、まだ手は残っている。
ノーヴァルデアの柄を握りしめた。
エルナスに、災厄の星を落とせばいいのだから。
そういえば、リアメスは結局、自分には呪文を施してはいなかったのだろうか。
いや、これこそが、あるいはリアメスの呪文の効果なのではないか。
あの老婆は手段を選ばない。
リューンヴァスが出てきてすべてをご破産にしようとしたときに、災厄の星を落とそうとモルグズの精神を誘導するような術をひそかにかけていたことは、充分に考えられる。
そうだ。
だが、それはそれで構わないのではないか。
自分は災厄なのだから。
もちろんこの肉体は消し飛ぶだろう。
morguz...(モルグズ……)
誰かが、こちらを呼びかけている。
金色の髪と、緑の瞳を持つ少女だ。
これで、俺の長かった旅も終わるのか。
だからお前は、迎えにきてくれたのか?
お前はイシュリナシア人として誇りを持っていたようだが、そんなものはただの勘違いだ。
こんな神を守護神にする国は、滅びたほうがいい。
ノーヴァルデアを掲げ、建物の狭間のひどく狭い空を見上げた。
よく晴れている。
だが、その上にはおそらく幾つもの災厄の星たちが、いま使われるのを待っているはずだ。
駄目だ。
いま、エルナスを破壊してはならない。
そうしたら「自分とレクゼリアの子供まで消し飛んでしまうのだから」。
脂汗を流しながら、なんとかモルグズは冷静さを取り戻していた。
眼の前には、ヴァルサによく似た少女がいる。
だが、彼女はヴァルサではない、と今はもう理解していた。
リアメスの弟子であり、水魔術師でもあるティーミャだ。
不安げにこちらを見ていた。
いつのまにかはぐれてしまっていたが、ようやくこちらを見つけたのだろう。
mende era ned,(問題ない)
モルグズは笑ってみせたが、相手は少し怯えていた。
布で牙を隠していても、やはり恐ろしいのだろうか。
reysi mxogos da isxurinas zersefma fo:rinxe.(人々がイシュリナス寺院の前に集まりだしています)
ついに、事態はそこまで進展しているのか。
gow isxurinasma i+sxures ta zereys gardos del zersefzo.(でもイシュリナスの騎士と僧侶が寺院を守り続けているんです)
なるほど、と思った。
これでも白銀騎士団も王国軍も出動していないということは、やはり彼らはイシュリナス寺院や騎士団の力を削ぐつもりなのだろう。
すでにそれほどまでにイシュリナス寺院の存在が、手にあまるものになっている証拠である。
モルグズは、メディルナ街道を東にむかった。
あたり一面に、無数の群衆の死体が転がっている。
ティーミャは吐き気をこらえているようだったが、この程度のことには慣れてもらわねば困る。
酸鼻を極める光景ではあるのだが。
頭を踏み潰されて、脳や頭蓋骨がはみ出しているもの。
腹部を蹴られたらしく、まるで水風船のように弾けて、腸や胃袋が飛び出している死体もある。
若い女は、右腕をもぎ取られて外傷性ショックで死んだようだが、これはまだ綺麗な死体といえた。
他にも人間というよりは、赤黒い肉塊のまわりに衣服だったものをこびりつかせた「物」や、上半身と下半身が寸断されたもの、また首だけが存在しないものなど、まるで惨殺死体の見本市、といった感じすらする。
白い敷石で舗装された道の上は、陽光を浴びているせいかかなり赤黒くなり始めていた。
太陽光を浴びた血はすぐに黒ずむが、この世界の「太陽」のスペクトル成分も、やはり地球と似たようなものなのだろう。
やがて、右手に高い城壁で囲まれた建物らしいものが見えてきたが、これがイシュリナシアの王宮らしい。
実戦的な城というよりは、完全に居住性などを重視した「王宮」そのものである。
さらに進むと、左手に剣と天秤をあわせたような意匠の聖印を掲げた塔を持つ、豪壮な装飾の施された建物があった。
その前では、数十人ほどの騎士や僧侶たちが、その十倍以上の民衆と、まだ戦いを続けている。
一人の騎士が馬上すら引きずり降ろされ、怒り狂った群衆に袋叩きにされていたが、別に哀れとは思わない。
愚かな神を信じるから、こんなことになるのだ。
おそらくこのエルナスの寺院こそが、イシュリナス信仰の拠点であり、最も神聖な場所なのだろう。
信徒としては意地でも守り抜くつもりだろうが、多勢に無勢だ。
ただ、まだ寺院のなかに、僧侶たちがたぶんいる。
彼らを丁寧に、死の呪文で根絶しなければならない。
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