9 mazefate cu?(目が醒めた?)

 性行為を行っているときは、ある意味では人が最も無防備になる時間、といってもいい。

 それでも、レクゼリアに精を放つのは、決して単なる肉欲ではない。

 ただ、ある意味ではさらに浅ましい欲望のなせる技かもしれなかった。

 せめて、いずれ消えるこの自分が生きていた証を、残したい。

 しかも彼女の兄の体を借りながら、だ。

 あまりにも都合の良い話である。

 それでも、レクゼリアとの交わりで、子供が出来ることをモルグズは心の底から望んでいた。

 問題は、同室の二人だ。

 すでにエィヘゥグは、この事態には慣れている。

 いや、無理矢理、慣らしたというべきかもしれない。

 問題はティーミャだった。

 彼女はどうも、こうした行為を見るのは初めてのようだ。

 今更、青少年にどうこうという観点で考えるは、たぶん間違っている。

 現代日本ならともかく、彼らはもう成人もしているのだ。

 それでも、ヴァルサに似た少女にこんな姿を見られているというのは、精神的にひどくきつかった。

 一応、子作りのために自分の精は吐き出したつもりではあるが、なぜか罪悪感を覚えた。

 これもリアメスの計算のうちか、と考える自分に嫌悪感は抱くが、それが間違いともいいきれないのだ。

 これで、レクゼリアは妊娠したのだろうか。

 さすがにティーミャも、今、そこまで確認する気はないようだ。

 彼女に生々しい男女の性の姿を見せて、申し訳ないような気もする。

 だが、すでにそれくらいは覚悟してもらわないと困るのも事実だ。

 実のところ、この部屋の寝台は、もともと大部屋を想定していたのか、四人分の広さがあるのだ。

 現代日本の人間ならシャワーでも浴びたいかもしれないが、ここはそんな便利な世界ではなかった。

 貪欲ともいえる動きで、再びレクゼリアがこちらを求めてくる。

 いま、自分が生きているという実感を、彼女と交わっていると確かにモルグズは感じていた。

 しかし、その生命もいずれ、尽きる。

 だから狂おしく動き、レグゼリアと体が溶け合うような感覚を覚えながらも、彼女とまた昇りつめていく。

 ティーミャの視線が、こちらを責めているように思えるのは錯覚、のはずだ。

 三日後には、エルナスに着くだろう。

 そこで、なにが待ち受けているのか。

 わからない。

 恐ろしくないといえば、嘘になる。

 ある意味、自分がやろうとしていることは、無茶苦茶だ。

 まともな策もたてずに、ただ病魔に支配された都へと、その隙につけこみ進入しようとしている。

 そしてとにかく、イシュリナス寺院の者たちを殺す。

 殺し尽くす。

 荒々しくまたレグゼリアを抱きしめ、命の源を吐き出した。


 jenjar hxa:lolm sxu:pin.sxiv fog.(今夜は疲れて眠い。寝たい)


 kap sxav.(私も寝る)


 さすがにレクゼリアも疲れているようだ。

 これで明日、きちんと起きられるのだろうかと思ったが、すっと眠りの世界に落ちていった。


 誰かが体を揺さぶっている。


 mazefate cu?(目が醒めた?)


 ヴァルサが、いた。

 なにかが、おかしい。

 彼女は確か……。


 mazefa:r.(起きろっ)


 いきなり、肘で顔を殴られた。

 おい、お前、いつからスファーナみたいに乱暴になったんだ……?

 スファーナとは、誰だったろうか?

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