3 vam mo:yefe magboga.binava zev.(私の可愛い怪物。私は去らなくちゃいけない)
まだ夢でも見ているのだろうか。
うまく体が動かせない。
そして男根が恐ろしくきつく、痛いほどだ。
これは淫らな夢、だと思いたい。
レグゼリアの豊かな乳房が奔放に跳ね回る。
やはり悪夢だ。
ウォーザ神がこんなことを許すはずがない。
かの神は、殊の外、近親相姦には敏感なはずだ。
自らの尼僧にこんなことを許すはずがないのである。
それでも、馬車が軋む音が生々しい。
スファーナもエィヘゥグも、すっかり眠りこけているとしか思えなかった。
やはりこれは現実ではない、と思いたいのにレグゼリアのなかは燃えるように熱い。
なにかがおかしかった。
体がうまく動かせず、声すら出せないのだ。
絶対にこんなことは間違っている。
嫌悪感と恐怖を覚えるが、なぜウォーザは神罰を与えないのだ。
もう限界だった。
生物としての、男として生まれた限界が近づいている。
まるで軟体生物にとりこまれたかのような感触に、たまらずモルグズは放ってしまった。
嘘だ。
彼女はこの体の元の持ち主の、リューンヴァスの妹のはずなのだ。
o+de.(兄さん)
それから情熱的に、上にかぶさるようにしてレグゼリアは口づけをしてきた。
やはりこれは夢だと思ったが、妙に現実的な感覚はなんなのだろう。
ウォーザは決して、こんなことを許さないはずだと思ったが、神々の身勝手さは理解している。
考えたくはないある可能性にたどり着いた。
この肉体が、戦士としては際立って優れているのは事実だろう。
だとしたら「その子供は父親の血を受け継ぐ」のではないだろうか。
明らかに、これは表向きはウォーザの教えには反している。
しかし、かの神はたぶんモルグズの寿命がもう長くはないことを知っているのだ。
そもそもこの体の持ち主がリューンヴァスと呼ばれていた頃から、ウォーザは「彼」を庇護していた。
その理由はなんだ?
「彼がいずれ自分にとって都合の良い、強力な戦士に育つ」ことを予見していたのではないだろうか。
人倫を破ってまで、ウォーザ神が「自分の道具を作る」ということは、充分に考えられる。
甘かった、としか言いようがない。
なにもレクゼリアという実の妹を相手にしなくてもいいのではないかとも思ったが、地球にもインブリードという概念が存在する。
ウォーザはそれを狙っているのではないだろうか。
近親婚は一般に、劣性遺伝子を発現させやすい。
この劣性というのは「劣った」という意味ではなく「遺伝的に発現しにくい」というものなのでときおり誤解を招くこともあるが、近親婚を長く続けている集団などは、男女双方の遺伝子が揃わないとでてこない劣性遺伝が出やすくなるのだ。
そのため、普通では出にくい特殊な遺伝病、あるいは奇形などが発生しやすい。
しかし、競馬の世界ではインブリードは、決して一般的とまではいわないが、ときおり凄まじい馬を生み出すことがある。
さすがにウォーザ神に遺伝学の知識があるとは思えない。
それでも、この神は長年の経験で、ときおりそうした交配から優れた子孫が出来ることを知っているのかもしれなかった。
そこでウォーザの意志を理解した。
おぞましい話だが、ウォーザ神は一種の賭けにでて、自分とレクゼリアを「交配させる」ことにより、さらに強力な戦士を生み出そうとしている。
狂気の沙汰だ。
また別の地獄がやってきた。
モルグズは、抵抗できない。
たぶん夕食になにか薬でも盛られていたのだろう。
一方的にレクゼリアによって「犯されている」のだ。
もう絶望すらしない。
ああ、またか、と思っただけだ。
レクゼリアは、子種をうけとって、次代の優れた戦士の母となるよう、ウォーザ神から神託を受け取っているとしか思えない。
だが、果たしてそううまくいくだろうか。
神としては、うまくいかなくてもかまわないのだろう。
そのときは、彼女は神に捨てられるだけだ。
ソラリスの近親婚を否定する神が、自分の利益を求めてこっそり、同じことをやらせている。
だが、先住民たちはもともと女系末子相続社会だったような気がする。
つまり、父親が誰かは関係ないのだ。
レクゼリアが子供を産んでも、その子がモルグズの子かどうかは重要ではなく「モルグズの元の体の持ち主であるリューンヴァスの母の血をレグゼリアがひいている」ことが重要なのだ。
ここまでくれば、神々にとって人間は家畜とどう違うのだろうか。
ついに種馬にまで落ちたか。
しかもそれはモルグズではなく、リューンヴァスの種を求めてのことなのだ。
ahxato...(お前は狂ってる……)
それがウォーザに対してか、あるいはレクゼリアが、自分でもよくわからなかった。
そもそも、口がうまくまわらない。
文字通り、それからは生命力を搾り取られた。
力が尽きて眠ってしまい、そこでまたなにか悪夢を見たような気がするが、よく覚えていない。
ただ、目覚めるとスファーナがひどく哀しげな顔をしていた。
vam mo:yefe magboga.binava zev.(私の可愛い怪物。私は去らなくちゃいけない)
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