5 magzuma so:rori somc satos ikarima mansadpo.(災厄の星々はときどき月の間から落ちてくるんだよ)
had lombus re magzuma so:ro tus cu?(あれは災厄の星と呼ばれているのか?)
金褐色の髪と青い瞳を持つ少女めいた少年が、いささかこわばった顔つきでうなずいた。
magzuma so:rori kulus satma la+taszo.(災厄の星々は大地のまわりを回ってるんだ)
そういえばレーミスはこの世界が球体であることを知っていた。
vomov mavi:r.tur ika yas.magzuma so:rori yas sat ta ikarima mansadle.(見て。三つ月があるよね。災厄の星々は大地と月の間にあるんだ)
kulus gam cu?(回りながらか?)
レーミスがうなずいた。
なるほど、やはり魔術師たちは天文学についてもかなりの知識を有しているようだ。
おそらく「災厄の星々」はこの惑星と複雑な三つの月の重力によって吸い寄せられた小惑星群なのだろう。
magzuma so:rori somc satos ikarima mansadpo.(災厄の星々はときどき月の間から落ちてくるんだよ)
jod asros go:sras sewrule teg.(それが大気とこすれて燃える)
レーミスは驚いたようだった。
彼もそこまでは知らなかったらしい。
この世界の周囲にはかなり大量の小惑星が集まっていても、おかしくはなかった。
wam ers magzuma so:ro cu?(なんで災厄の星なんだ?)
nan maguzma so:ro azbarogo sud dognes satle teg.sils yas.(大きな災厄の星が地面にぶつかって爆発したことがあるから。記録があるんだ)
なるほど、この世界ではひょっとすると地球よりも、小天体の衝突が多かったのかもしれない。
原因はたぶん、あの三つの月だ。
複雑な重力井戸に捕らえられた小惑星は摂動によるわずかな軌道のずれで、そのままこの惑星へと落下してくるのかもしれない。
地球でも、二十世紀の初めにおきたシベリアのツングースカ大爆発などは彗星の一部の落ちてきたものではないかと言われている。
それと同じようなことが、この世界で起きてもおかしくはない。
ner yuridres rxumonos ci foy magzuma so:rozo cez.(偉大な魔術師は災厄の星を呼び出すことが出来るらしいけど)
なるほど、つまりは小惑星や彗星を落とす魔術も実在する、ということのようだ。
ふいに、ノーヴァルデアの「体」が激しく震えだした。
まるで今のモルグスたちのやり取りに反応したかのように。
考えてみればこの魔剣のかつての名は「molgimagz」、すなわち「災厄をもたらす」なのだ。
あるいは、と思った。
いまのノーヴァルデアの反応にはなにか意味があるのではないだろうか。
災厄の星。
災厄をもたらす。
闇魔術、特に死の力を増強する魔剣、という話だったが「それはこの魔剣の持つ力のすべて」なのだろうか。
確かにそれはそれで十分に恐ろしい力ではあるだろう。
しかし、ユリディン寺院がわざわざあそこまでして管理していたのには、もっと重大な秘密が隠されているのではないか。
そう、たとえば「空から災厄の星を落とす」ようなことが可能だとしたら。
そこで、またノーヴァルデアの意識のようなものが伝わってきた。
可能だ、と。
彼女が嘘をつく理由はない。
とはいえそこでまた、ある疑問にたどり着く。
なるほどレーミスは天才魔術師だし、まるで地球のハッカーのようにユリディン寺院の結界を丸裸にして、警備の隙をつくった。
さらに下準備としてスファーナのばらまいた疫病の力で、魔術師たちはだいぶ弱っていた。
しかしそれを割り引いたにとしても、少しあれはいろいろとうまく行き過ぎてはいなかったか。
一言でいえば「話がうますぎる」気がしないこともない。
最近では、自分がなんだか本物の魔王の役でも割り当てられたような気さえしているほどだ。
もともとモルグズは猜疑心が強い。
その直感が、なにかがおかしいと告げているのだ。
ネスの街に疫病をばらまき、続いて恐るべき古代の魔剣を持ち出した異界からの来訪者。
しかもこの世界の人々にとっては、もっとも忌むべき半アルグの肉体を持っている。
「この世界の者にとってこれほど都合のいい悪役」がいるだろうか。
まさかな、とは思う。
だが、一度、思いついてしまった被害妄想めいた思考はなかなか止まってくれない。
悪を倒す者は、勇者、あるいは正義の味方、などと呼ばれるだろう。
いまはイシュリナス寺院もイシュリナシア王国も真実を秘匿しているが、いずれそれを人々に知らしめる日がくるかもしれない。
異界からの悪逆なる死と破壊の王を倒せと。
災いをもたらすものを滅ぼせと。
さて、そのとき「一番、得をするものは誰だろうか」。
ある一柱の神の名が、脳裏をよぎる。
その神は文字通りの「正義の神」だ。
邪悪なるものは滅するべきだと解き、寺院に精神的に腐敗した僧侶たちを抱えている。
なぜ、かの神は僧侶に神託を送らなかったのだろう。
彼女はそうすれば、死なずにすんだのだ。
あれが無罪であり、冤罪であると神は知っていたはずだ。
その刹那、ノーヴァルデアの刀身が激しく震え始めた。
なにも思い出すなと叫ぶかのように。
そうだ、いまは「そのこと」はどうでもいいのだと思うと嘘のように頭の痛みはなくなった。
mende era?(大丈夫?)
スファーナが、ひどく不安げにこちらを見ている。
その顔が上気しているのがはっきりとわかった。
半アルグの性フェロモンのせいだ。
単に生物学的な罠にとらわれているだけなのだ。
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