2 seqigi asuyguma algo yalbis teg.(血まみれの祭りがはじゅまるってぎいたんで)

 aln reysi zemgo lakeva reysizo teg.(私が愛した男たちはみんな死んだから)


 確かに俺たちは同類かもしれない、と思った。


 yem zamiv ned.zamiv ci ned.(俺はまだ死なない。死ねないんだ)


 resa?(女?)


 vekav ned.(わからねえ)


 ノーヴァルデアは、少なくともモルグズの心のなかでは女ではない。

 そういえば大事なことを忘れていた。

 彼女を嫁に出すのなら、体の傷もきちんと消さないと、相手の男に嫌われちまうな。


 tsas aboto ti+juce resazo.(いつもあんたは別の女のことを考えてる)


 abov ned.(そんなことはない)


 o:zura.(嘘ばっかり)


 ゼーミャはいささか大きな口を開けて、陽気そうに笑った。


 dusonvava o:zurazo.now vomov zemno:r ned.(嘘は嫌いだよ。でも、死なないでね)


 約束は出来なかった。

 いつのまにか、ゼーミャは寝入っていた。

 すでに、支度は出来ている。

 もしこれがユリディン寺院の仕掛けた罠なら、たぶん数刻をまたずして自分は死ぬだろう。

 しかし、決行予定日は、今日だ。

 夜明け前に人の注意力が散漫になるのは、たぶんこの世界でも変わらない。

 眠りこけたゼーミャの前で、自分の装備を確認した。

 さまざまなものをしまう小袋を胴着や外套が内側に備え付けられている他は、傍からはなにをしているかはよくわからないだろう。

 腰には長剣を吊っているが、この程度までの武装なら、メディルナでは特に人目をひくことはない。

 共同住宅の階段を降りて外に出ると、呼気が白かった。

 最初にこの世界に来たころは、まだ初夏だったのに。

 とはいえ、今更、そんなことを考えている場合ではない。

 そろそろ、レーミスがやってくれるはずだ。

 彼との魔術的なやり取りの原理は、正直にいっていまだにモルグズにはよくわからない。

 ただ双方向で魔術による通信を行えるぶん、どちらかに精神的に衝撃がいけば相手にもいく、ということだけは知っている。


 eto la:kares.(色男ですね)


 santu:r,gxa:(黙れ、ガキが)


 ya:ya:(はあーい)


 意識の向こうで、レーミスが笑っているのがわかる。

 すでにお互い、軽口を叩ける間柄になっていた。

 だが向こうが緊張しているのも伝わってくる。

 正面から本気でユリディン寺院に喧嘩を売るという意味も、むしろレーミスのほうが遥かに理解しているはずだ。

 ゆっくりと、酔漢のふりをしてユリディン寺院の正門の近くへと近づいていく。

 その横には小さな通用門があり、ふだん、なにかの事情があって時間に遅れたり、緊急の用事がある魔術師が使用するのだ。

 当然、守衛も魔術師であり、傭兵も雇われている。

 傭兵らしい男が近づいてきた。


 wob ers cu?(なんだ?)


 seqigi asuyguma algo yalbis tes teg,(血まみれの祭りがはじゅまるってぎいたんで)


 わざとらしいグルディア訛りにどれほどの効果があるかは知らないが知らないがもうそんなことはどうでもいい。

 突如、魔術の塔のかなり上の階から爆発音とともに火煙があがったのだ。

 さすがにレーミスだ、と素直に思った。

 傭兵と警護の魔術師が混乱している間に、モルグズは通用門を突破した。

 ここから先のあらゆる防御網は、これからただのザルになる。

 なぜなら、レーミスが今、意識を集中して遠隔からこの塔の管理された魔術結界を破壊しているからだ。

 もちろん一時的なものであり、恒久的なものでないとはいえ、ありがたいことには変わりない。

 こっちはゼーミャとの愛の行為も三度ほどに抑え、きっちりと体力を温存しておいたのである。

 一階の大理石がはられた豪奢な部屋は、不気味なほど現代の地球のビルの一階ロビーあたりと酷似している。

 だが、エレベータはまた話が別だ。

 垂直の回廊に、床が金属でできた鉄板が浮遊している。

 なんとも頼りない話だが、これを使うしか無いのだ。

 そのとき、後ろから近づいてくる相手を見て振り返った。

 あの馬鹿みたいなツインテールの髪型のまま、スファーナがやってくる。


 duvika:r ned! vega: racmava vam zertigama tigazo teg!(誤解しないでよ! 私は私の法力の力を確認しにきたんだからっ!)


 彼女の言葉の真偽はともかく、スファーナの法力が効いていることはたぶん間違いない。

 ここ数日、ユリディン寺院に食料を運び込む業者を中心に、ひどい風邪のような病と、腹を下すものが同時に流行していた……というより、スファーナがさせたのだから。

 もっともあまりユリディン寺院だけを狙うとばれるので、そうした業者がいるメディルナの各地で病気を発生させていたが。

 この地では冬によく流行するものであり、死亡率はほとんどないので誰も不自然だとは疑っていないらしい。

 このあたりはスファーナは巧妙だ。

 ネスの時よりは遥かに穏やかとはいえ、病を操る能力の恐ろしさを実感した。

 いまのユリディン寺院は、たぶんいつもの三分の一くらいにまでは、危機管理能力は低下している。

 そこに外からある種のハッキングを受ければ、ほぼモルグスたち「テロリスト」の思うがままだ。

 とにかく、魔剣molgimagzの存在するはずの、地上十七階の保存庫に向かうしか無い。

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