2 vomova voni:r vam ma:sesa.tom artis ers foy ned ku+sin suru.(私の家にきなよ。あ

 ers fanpon! no:vayuridresi mxogos tarsefnxe...lokyiv sewruzo!(面白いな! 闇魔術師どもが集まる酒場で……lokyiv sewrzo!)


 そこで、ようやく思い出した。

 魔術で使われる五つの元素には、対立関係が存在することを。

 たとえば、火は水と闇と対立している。

 そして闇は火と「風」と対立しているのだ。

 魔術師たちの低い笑い声があちこちから聞こえてきた。

 単に語彙が貧弱だっただけなのだが、闇魔術師たちはそれを、ある種のブラックユーモアとして受け取ったようだ。

 そういえば、ラクレィスもそうした部分があった気がする。

 闇魔術師というからみんな陰気な連中かと思ったが、決してそういうわけでもないようだ。

 だが、なにかこの酒場の闇魔術師たちからは、妙な親近感めいたものを覚える。

 考えてみれば、モルグスも一応は闇魔術の使い手なのだ。

 魔術師的な表現をすれば「闇の元素の力が強い」ということになる。

 ひょっとすると、彼らもそれを敏感に感じ取ったのかもしれない。

 それから全員にヴィンスの新酒を、というと喝采が起こった。

 空いていた席に座ると横に黒衣の女がいた。

 くすんだ金髪と緑の目をしているので、一瞬、ぎょっとなった。

 ヴァルサのことを思い出したのだ。

 だがよくみればヴァルサとはだいぶ、顔立ちも違うし、なにより顔に大きな傷が走っていた。


 eto yu:jenartis cu?(あんたは傭兵かい)


 モルグズはうなずいた。


 gow nodov ned tarsuyzo.gxutma gu+za...(でも俺は酒は飲まない。口の傷が……)


 vekava.(わかるよ)


 ふと女が哀しげな顔をしたのを見て、モルグズは申し訳ないような気分になった。

 彼女の顔には明らかに目立つ傷がついているが、こちらの傷の話は嘘だからだ。

 美人ではないが、決して醜くもない。

 いくぶん口が大きめで両目が離れているが、顔の傷がなければわりと見れる顔である。

 もっとも、当人がそのことを一番、気にしているだろうからさすがになにも言えなかった。

 年の頃は現代日本の基準でいえば三十前、というところだが、実際は二十代半ばあたりだろう。

 厳しい生活環境や食習慣、あるいは種族そのものがホピ・サピエンスと違うせいか、どちらかといえばこちらの世界の「人間」のほうが早く老化する傾向がある。


 gow yuridus nodos ci tarsuyzo cu?(でも魔術師は酒が飲めるのか?)


 すると、女が微笑んだ。


 reys nodos tarsuyzo.yuridres ers reys.dog yuridres nodos tarsuyzo.(人は酒を飲む。魔術師は人である。だから魔術師は酒を飲む)


 ちょっとした三段論法だが、この世界にそんなものがあるかは知らなかった。


 vam marna era ze:mxa.tom marna era cu?(私の名前はゼーミャ。あんたの名前は?)


 erv morguz.(モルグズだ)


 それにしても不吉な名である。

 死の接頭辞であるzemがそのまま名前……魔術名だろうが……についているのだから。

 わずかに顔をこわばらせたモルグズに、ゼーミャは微笑んだ。


 eto rxo:bin cu?(怖い?)


 tirav ned.atmav zemnole.(いや。死には慣れている)


 これは決して嘘ではない。

 自分の死にも、他人の死にも。


 reysi vecbos vol.ers mxuln.vo rxenkov kul ned zemnozo teg.(人々は私たちに怯えてる。おかしな話だよ。私たちは死だけを扱っているんじゃないのに)


 rxenkoto cu?(あんたはなにを扱っているんだ?)


 すると、運ばれてきたヴィンスの新酒を片手にゼーミャが言った。


 rxenkova vuszo,dermozo,gu+zo,mo:gazo,ta rxo:bizo kap.(私は毒を、呪いを、腐敗を、闇を、あと恐怖も扱っている)


 つい苦笑した。


 teminum eto foy rxo:bin voz.(本当に私たちが怖くないみたいだね)


 少しゼーミャは驚いたようだった。


 gow eto rxo:bin.sxulv resama rxo:bizo.(でもあんたは怖いね。俺は女の恐ろしさを知っている)


 これもまた、嘘ではない。


 no:vayuridresa dugogega kazoszo.(女闇魔術師は社会からはみ出しているんだよ)


 ヴィンスの新酒を、ゼーミャはゆっくりと飲むと話を続けた。


 no:vayuridresma lo:no ers aln sa+gxan lo:no.manras ned ku+sin reysuma a:vile.dog vo ongov re dermov reysuzo,vusiv tarsuyle.melrum ers kul mig we+ce jits.(闇魔術師の仕事は汚い仕事ばかりだよ。普通の人達の暮らしの役には立たない。だから頼まれて人を呪い、酒に毒を入れる。もちろんとても弱い術だけだけどね)


 自虐的にゼーミャが笑った。

 確かに魔術のなかでも、闇魔術だけはまっとうな人々の生活にはなんの役にも立たないだろう。

 現実に、多くの闇魔術師はなかば裏の社会で、生きているのかもしれない。

 あるいはゼーミャの言ったとおり、依頼されてちょっとした呪いをかけたり、他人の酒に毒を入れることもあるかもしれない。

 そうした存在を人々が忌避するのは当然ではある。

 魔術師の中でも、ある意味ではもっとも社会から恐れられ、そして孤立しているのが闇魔術師らしい。


 vomova voni:r vam ma:sesa.tom artis ers foy ned ku+sin suru.(私の家にきなよ。あんたの剣はただの飾りじゃないんだろう?)


 ゼーミャの目の奥には、明らかに情欲の光が宿っていた。

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