8 solova del tur sxas te+sxu ant.ned.ham ers foy len.(私は三百年くらい生き続けているの。いえ。もっと長いかも)

 確かに当然だ。

 だが、なぜその当たり前のことを否定するのに、そこまで感情をあらわにするのだろうか。

 今のスファーナは、普通ではなかった。


 va nafagav to fite re welgosresle.(私はお前がwelgosresに飼われていたのかと思った)


 その瞬間、椅子からスファーナが立ち上がった。


 sabonova cutzo!(草をぬいてくるっ!)


 扉を開けると、彼女は厠にむかったようだった。

 「草を抜く」というのは、女性がトイレに行く、という意味だと以前、ノーヴァルデアに教わったことがある。

 つまりその格好が、厠や野外で用を足すときと似ているかららしい。

 日本語の「花を摘む」に比べるとなんとも風情のない表現だ、と思ったのではっきりと覚えている。

 トイレに風情を求めても仕方ないが。

 だが、いまのうちにノーヴァルデアに聞いておきたいことがあった。


 wob welgos ers cu?(ウェルゴスってなんだ?)


 聞いたことない単語である。

 少女が答えた。


 welgos erig uldce zeros.(ウェルゴスは古い神だった)


 過去形、ということ今はどうなっているのだろう。


 jen welgos zeros ers cu?(今、ウェルゴス神は?)


 mxujes re.(滅ぼされた)


 この地では神々ですら滅びるようだ。

 あの疫病の神も、そういえば結局、最後には力を失って消滅してしまったのだった。


 uldce welgosres mego reyszo.(昔のウェルゴス信者は人を食べていた)


 あまり食事中にすべき話題ではない気もするが、やはり気になる。


 welgosres erig alg cu?(ウェルゴス信者はアルグだったのか?)


 jod erig ned.welgosres erig reys.reys mego reysuzo.(そうではなかった。ウェルゴス信者は人間だった。人が人を食べていた)


 sor erig cu?(いつの話だ?)


 tur sxas te+sxu ant erig ful.(三百年くらい前だ)


 いくらなんでも、スファーナが三百歳を超えているわけがない。

 この世界で人を食うといえば、なんといってもアルグである。

 だとすると、あるいはスファーナは、忌まわしい話だが一時的にアルグに監禁されていた、ということもありうる。

 そこでいつ食われるか、という恐怖に襲われながら、別の人間が食べられていくさまを見ていたら、あるいはあの反応も……。

 いや、それはない。

 なぜなら、モルグズは半アルグなのである。

 もしそんな経験があれば、間違ってもモルグズをからかったり、無下に扱ったりはしないはずだ。

 むしろ逃げるほうが自然だ。

 しかし、だとするとわからなくなる。

 そこで、あるきわめて馬鹿馬鹿しい可能性にたどり着いた。

 彼女はあのネスの街の凄まじい地獄のような光景を見ても、動揺していなかった。

 つまり彼女は、さらに恐ろしいもの、忌まわしい物事を、あるいは経験していることも考えられる。

 ゼムナリアは言っていた。

 魔術で寿命を延ばすことは可能だと。

 実際、リアメスというグルードの仲間だった女性はいまも生きているという話だ。

 グルードが活躍したのは百年も前の話である。

 そして三百年前といえば、ラクレィスから教わったセルナーダの歴史が間違っていなければ、ちょうどイシュリナシア、続いてイオマンテが建国された時期に相当する。

 理性は、否定している。

 さすがにこの考えは、無茶すぎる。

 しかしそれを言えば、自分がこの異世界に転生したという事実は、どうなのだろうか。

 常識的には、この世界の人間たちの間でも考えられないことだ。

 そして魔術師が魔術で延命することは、非常識ではないのである。

 だが、スファーナは魔術師ではない。

 彼女は、エグゾーンの尼僧だ。

 エグゾーンの尼僧は、あくまでも病の女神の信徒であり、それは寿命とはまた別だ。

 わからない。

 あるいは自分の考え過ぎなのかもしれない。

 スファーナは上流階級の生まれで肉嫌いだが、なにかきっかけがあってエグゾーンの僧侶になった。

 家畜うんぬんは単なる彼女の感傷にすぎない。

 だから、スファーナが厠から戻ってくると、何気なくモルグズは訊ねた。


 sufa:na,tom a:jsma patca wob era cu?(スファーナ、お前、何歳なんだ?)


 それを聞いた瞬間、スファーナの顔が仮面のようになり、下半身から力が抜けたようになった。


 vekate.(お前、気づいたの)


 彼女の声は、かすかに震えていた。


 solova del tur sxas te+sxu ant.ned.ham ers foy len.(私は三百年くらい生き続けているの。いえ。もっと長いかも)


 mende era ned.vegi ti+juce judnikpo.ayoyito viz cu?(問題ない。俺は異世界から来た。お前は俺をからかっているんだろ?)


 ayoyiva ned tuz.ta u+tam nafava da teminum vete ti+juce judnikpo.(からかってない。そして最近はお前が本当に別の世界からきたと考え始めている)

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