6 so:lo......rolgos zun so:lozo yuridustse....(命は……命は魔術で弄んではならない……)

 ba:bo avas malsosgoszo,huw.(赤ん坊が金貨を持つ、ね。ふう)


 スファーナがため息をついた。

 宿を選んでいるスファーナと同行しながら、ぼんやりとモルグズは思った。

 今の言葉の意味を考えていたのだ。

 赤ん坊が金貨を持つ。

 意味がわからない。

 たぶん、なにかの慣用句、あるいは諺のようなものではないかと思った瞬間、理解した。

 赤ん坊には金貨の価値はわからない。

 つまりは「猫に小判」ではないか。

 少し、いやかなり頭にきた。

 もう少しあの小娘に、こちらの恐ろしさを教えてやったほうがいいのではないだろうか。

 だが、横でノーヴァルデアに言われてそんな怒りも消え失せた。


 ba:bo avas malsosgoszo.cod ers mxuln.morguz ers ba:bo cu?(赤ん坊が金を持つ。これはおかしい。モルグズは赤ん坊なのか?)


 異常な生育を遂げているため、ノーヴァルデアからは社会常識が抜け落ちているのだ。


 mavto ci viz ba:bole cu?(俺が赤ん坊に見えるか?)


 ma+va ci ned.morguz ers mig e+cofe udnema reys.(見えない。モルグズはとても格好いい大人の男だ)


 その瞬間、背筋に戦慄が走った。

 

 e+cofe.格好いい。

 

 決してそんなことはない。

 ヴァルサ一人を守ることも出来なかった男なのだ。

 さらにネスの街の人々に復讐を試みたが、結局はゼムナリアに利用されただけの、大間抜けの人殺しだ。


 erv ned e+cofe.(俺はかっこよくない)


 ya:ya.morguz ers mig,holtsum,kovum,zavausm e+cofe.(いや、モルグズはとても、明らかに、完璧に、絶対に、格好いい)


 santu:r,gxa:!(黙れ、ガキっ!)


 怒鳴り声をあげてから、はっとした。

 一見すると、ノーヴァルデアは無表情のようにも見える。

 だが彼女がひどく哀しんでいることがモルグズにははっきりとわかった。


 va fikuva resa tsosowa morguzma koksale cedc.(モルグズの心に女が住んでいるように感じる)


 今度はなにを言い出すのだ、と思ったがすぐにモルグズの顔はこわばった。


 resa ava soln casma: ta weltuce minizo.(女は金髪で緑の目をしている)


 そういえばノーヴァルデアは、ヴァルサのことを知っていたのだ。

 彼女はとうの昔に、モルグスの心を理解していたのだろう。


 va urjava soln casma:ma resale.(私は金髪の女に嫉妬する)


 お前は子供なんだ、とは言えない。

 彼女は見た目こそ子供だが、すでに実年齢はアルデアと同じなのだ。

 こればかりは、どうにもならない現実なのである。

 彼女はこれからも子供のままだ。

 魔法でもない使わない限り……。

 そこで、モルグズは笑いだした。

 やはり俺はどうしようもない馬鹿だ、と思った。

 なぜこんなことに気づかなかったのだ。

 この世界には「魔術が実在している」のである。

 以前、ゼムナリアは寿命を延ばす魔術師がいると確かに言っていた。

 であるならば「成長を促進する魔術」があってもおかしくはない。

 

 no:valdea! nato fog udnema resa cu?(ノーヴァルデア! お前は大人の女になりたいか?)

 

 いきなり笑い始めたモルグズに、ノーヴァルデアは困惑しているようだった。


 nato fog! gow...(なりたい! だが……)


 いつも主語まできっちりと発音するノーヴァルデアがtoを言い忘れたことが、彼女の心をそのまま表している。


 gow? yuridus yas.yuridus kotsos fa foy tuz udnema resale.(だが? 魔術がある。魔術がお前を大人にしてくれるかもしれない)


 ぽかんと、ノーヴァルデアが口を開けた。

 彼女も、その可能性に気づいていなかったのだろう。


 yoy,wob eto cu?(ちょっと、あんたたち)


 一軒の旅籠の前で、スファーナが腕組みをしてこちらを睨んでいた。


 vomova farsa:r! mefnogav mig van sxupsefzo dog!(急いでよっ! いい旅籠を見つけたんだからっ)


 sufa:na! yuridus ers! yuridus kotsos fa foy no:valdeazo udne.... (スファーナ! 魔術だっ! 魔術がノーヴァルデアを大人にしてくれるかも……)


 そこでモルグズははっとなった。

 スファーナはいままで見たこともない、恐怖とも、哀しみともつかない表情を浮かべていたのだ。


 so:lo.....rolgos zun so:lozo yuridustse....(命は……命は魔術で弄んではならない……)

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