10 ers foy.now payu lepnxav ned.vo zemgev to:g.(かもしれないな。でも、もう戻れない。俺たちは殺しすぎた)

 reysuwoyiya ers magzad selna:danxe.now woiya yajowa.ers mxuln cu?(男性同性愛はセルナーダでは邪悪だ。だが女の同性愛は許されている。奇妙な話だろ?)


 実際、おかしな話である。

 だが文化というものは、そういったものなのだ。

 地球でも、たとえば食べ物に関するタブーは地域によって異なっている。

 このセルナーダでも、イシュリナシア人にとって馬を食べることはおぞましいことだが、グルディアではそうではない。

 ネルサティア魔術はもとが家父長的なネルサティア文化の産物なのだから、男の魔術師同士が愛し合うなど言語道断、という感じなのだろう。

 一方の女性同性愛は、おそらくはもとから精霊の民にあった習慣であり「奇妙なことをするものだ」とネルサティア人は考えはしても、別段、それを悪とは見なさなかったに違いない。


 morguz,lakav tuz.(モルグズ、お前を愛している)


 sxulv.gow lakav ci ned reysuzo.(知ってるよ。だが、俺は男を愛せない)


 vekav.(わかっている)


 ここまで話を聞いた以上、ラクレィスに過去の自分のことを話さないのは卑怯に思えた。

 だから、地球で自分がしたことも、ヴァルサとのことも、すべて包み隠さず、モルグズは話した。


 vo yatmigiv foy ko:ratzo.(俺たちは道を間違えたのかもしれない)


 ers foy.now payu lepnxav ci ned.vo zemgev to:g.(かもしれないな。でも、もう戻れない。俺たちは殺しすぎた)


 それはラクレィスもわかっているはずだ。


 a:sla kap,no:valdea kap,zemgev to:g.alnureys zemges to:g.(アースラも、ノーヴァルデアも、殺しすぎた。みんな、殺しすぎた)


 ラクレィスの目からは、涙がこぼれ始めた。

 この男が泣くのを見るのは、初めてだ。


 ta turis kap zems fa foy.a:mofe reysi zems fa foy.(そしてテュリスも死ぬだろう。たくさんの人々が死ぬだろう)


 モルグズはすうっと心が冷えるのを感じていた。


 gow no:valdea....(だがノーヴァルデアは……)


 あるいは、とモルグズは思った。

 ラクレィスは、ノーヴァルデアを「本当の子供」だと勘違いしているのかもしれない。

 彼に事実を告げると、ラクレィスは絶句した。

 やはり、知らなかったようだ。


 lakev sel u:kla tus.(俺は彼女を家族として愛していた)


 vekav.erv kap.(わかる。俺もだ)


 losxuv li cu? u+tam,ma+va resa tus minitse tuz.(気づいているか。最近、彼女はお前を女としての目で見ている)


 聞きたくなかった。

 だが、そうであっても別におかしな話ではない。

 確かに外見は幼く見えるが、いまのノーヴァルデアはアルデアと同い年の、大人なのだ。

 父親の代理としてだけではなく、彼女はこちらを異性としても意識し始めている。

 だが、当たり前の話だがモルグズは彼女の愛にも応えられない。


 lakav ci ned no:valdeazo resa tus.erv ned nulano:kres.(女としてノーヴァルデアを愛せない。俺はヌラノーク信者じゃない)


 だいたいあの体では、愛し合うこと自体が不可能だろう。

 さらにいえば彼女の愛は、苦痛とも歪んだ形で混じり合っている。

 ノーヴァルデアは極端なサディストにしてマゾヒスト、という可能性すらあるのだ。

 それにしても、とモルグズは笑いたくなった。

 どいつもこいつも、いかれてやがる。

 正常な人間など、仲間には誰一人としていない。

 だが、それも当然のことだった。

 まともな人間がゼムナリアやクーファーの信者や尼僧になったりするはずもない。

 たぶんアースラのなかにも、あの狂った信仰に走った理由はあるのだろう。

 以前、ウボド神がどうこうという話はしていたが、そこからクーファーの尼僧になった過程に明らかに不自然な飛躍があった。

 もっとも、彼女の過去を詮索するつもりもない。

 話したくなれば、話せばいい。

 さらにいえば、いまでこそゼムナリアとクーファーは協力しているが、この神々の性質を考えると、いつ敵になってもおかしくはないのだ。

 それから、二人で小屋に戻った。

 ラクレィスの寝息が聞こえてくる。

 小さな影が、闇の中で動いた。

 ノーヴァルデアだ。

 彼女はこちらにしがみつくようにして、抱きついてきた。


 va voksu fog la:kama wognozo.(私は愛の行為を学びたい)


 gxa: socum sxupi:r.(ガキはさっさと寝ろ)


 そう言ったが、その夜、モルグズはなかなか寝つけなかった。

 成長の止まったノーヴァルデアが女性として愛の喜びを知ることは、たぶんないだろう。

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