3 ers ubodo ta guru:d cedc.(ウボドとグルードみたいだな)

 リアメスを出て三日がたった。

 正直に言って、あっさり城門を通ったときは拍子ぬけしたものだ。

 てっきり、公爵の衛視やウボド騎士団の騎士たちが待ち構えていると信じ込んでいたのである。

 だが、公爵への連絡が遅れたのか、あるいは盗賊テューレにはまた別の考えがあるのか、いずれにせよ無事、あの街から外に出られただけで十分といえた。

 ただし、決して油断はしていない。

 こちらのあとを相手はつけているかもしれない。

 農村部にまで情報網が存在しているのかはわからないが、用心にこしたことはなかった。

 道中は、なるべく目立たぬように注意し、荒事も避けた。

 ノーヴァルデアは若干、不満なようだったが。

 そしてさきほど立ち寄った農村でcharsuybu+qaの噂を聞きつけたのである。

 村では、かつてここに邪神が封じられたという記憶は忘れられていた。

 なにしろラクレィスの話によれば、セルナーダ古神群が封印されたのは、今から千年以上も前の話だという。

 今では、なぜ「赤水丘」と呼ばれているかさえ、わからないという。

 ただ、不気味な場所なので村の人々は近づかないという話だ。

 千年という時間の重みを感じた。

 ラクレィスからは、すでにこの土地の歴史のあらましは聞いている。

 いまは、ネルサティア歴で二五四五年だという。

 この暦の始まりの年になにがあったのかと聞くと、初代の太陽王が即位したのだそうだ。

 ネルサティアの太陽王は、太陽神と生命の神、ソラリスの血をひいているのだという。

 それを聞いて、古代エジプトを連想したが、ネルサティアというのは確かにエジプトに似たところが幾つもあった。

 まず、ネルサティアは基本的に砂漠が多く、大河沿いに人々は住んでいたという。

 ただナイル川のように一つではなく、南北二つのネルサティス川というものがあるそうだ。

 南北ネルサティアはさまざまな対立をしていたが、これを統一したのもソラリオンという名の初代、太陽王であるという。

 ネルサティアでは古くから冶金技術が発達し、製鉄文化も進んだ。

 ただ興味深いのは、この鉄という金属は、ネルサティア人は「死と闇の金属」とも呼んだらしい。

 おそらく初期の鉄は武器として使われたのも、関係しているのだろう。

 いまでもセルナーダ語では、鉄のことをzemgosと呼ぶ。

 ちなみに金属はa:gosなので、だいたい「死の金属」という意味だとわかる。

 船に乗り、この金属を携えた人々が精霊の民の住む土地にやってきた。

 今のセルナーダの地である。

 ただ、当時のネルサティア人は武力というより、文化侵略的な形で精霊の地の民を従えたらしい。

 葡萄酒、馬の乗り方と馬具、そして鉄の武器。

 この三つを先住民たちは好んだという。

 当時、幾つもの部族に分かれていた精霊の民を互いに争わせたり、さまざまな手段を用いた結果、比較的、短期間にネルサティア人はこの地の支配者となった。

 当初はネルサティア本国の怒りを買わないように属領のようにふるまっていたようだが、ネルサティアでの内戦を機会に初代amfersが即位した。

 solsuleks、つまり太陽王とは別の称号を名乗ったのである。

 皇帝、ぐらいしかふさわしい訳語は見つからなかった。

 以来、この地で王を名乗るものはみな「黄金の血をひいていなければならない」という伝統が生まれた。

 初代の皇帝ももとは太陽王の一族だったらしい。

 こうしてセルナーダの大部分を支配し、帝国は栄えたが、最終的には三つの王国に分裂してしまった。

 その位置が今の三大国家にぴったりと同じなのは偶然ではない。

 人間の居住に適した地は、イシュリナシアの存在する沖積平野、グラワール湖周辺、そしてアリッド山脈と呼ばれる山々の向こう、現在のイオマンテのあるあたりなのは昔から変わってないからだ。

 この帝国が分裂した三王国を、uld turleksuya、つまり旧三王国と呼ぶらしい。

 これらの王国は互いに争いあい、疲弊し、結局は滅亡してしまった。

 それから群雄割拠の時代が続いたが、誰もセルナーダを統一できないまま、今度は魔術界に異変が起きた。

 突如、魔術師たちの使う魔術が強力になったのである。

 その結果、今度は力を持つ魔術師たちが実権を握り、凄まじい魔術があちこちで行使されたという。

 都市をまるごと焼き尽くすような呪文が当たり前のように使われたようだ。

 だが今度は魔力が休息に弱まり、結局、荒れ果てた土地だけが残った。

 そこで勢力をましたのが、ゼムナリアやクーファーといった破壊的な邪神を崇める教団だ。

 さらに辺境域が拡大し、人口は激減した。

 一時期、セルナーダから人類は滅びかけたほどだという。

 このときは「魔術師狩り」が横行し、魔術の文化も絶えそうになったほどだ。

 しかしそこから、人々は立ち上がった。

 まず一人の男が、正義神イシュリナスに出会ったのだという。


 isxurinas uldum erig i+sxuresma zeros.gow me:fe isxurinas ajmarnes va:nisma zeroszo.(イシュリナスはかつては騎士の神だった。だが、新たなイシュリナスは正義の神を名乗った)


 そしてイシュリナスに出会った男は神にならい、自らの名もisxuleinと改め、神のための王国を建国した。

 これがイシュリナシアの起こり、ということだがどこかで聞いた話だ。


 ers ubodo ta guru:d cedc.(ウボドとグルードみたいだな)


 ラクレィスも否定しなかった。

 それから少し遅れて、東方では魔術師狩りを生き延びた魔術師たちがイオマンテ魔術王国を建国する。

 それから、グルードに征服されるまでは、グラワール湖岸では八つの都市国家が栄えたということだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る