4 uldce zeros...now vo eriv yapc cu? ja:bima zeros ers.(古代の神……でも俺はたちは安全なのか? 病の神なんだろ)

 別の世界の歴史のはずなのに、地球のそれと大差ない気がする。

 違う点があるとすれば、魔術の力の変化に歴史が影響されたり、特定の神のために国が作られた、というところくらいだろうか。

 もっともイスラム王朝などもこの例にあたるが、最大の違いは一神教か多神教か、というところだろう。

 現在の地球では、圧倒的に一神教が強い。

 多神教的なのはインドのヒンドゥー教や日本の神道など、少数派である。

 ちなみに北方のシャラーン人がいまのグルディアのあたりにやってきたのは今から四百五十年ほど前、ちょうど旧三王国が崩壊し、群雄割拠の時代だという。

 ただしこの支配は百年あまりで終わったらしいが。

 なんとなくグルディアはイスラムの後ウマイヤ朝に征服をうけた、かつてのスペインに似ている気がする。

 今のイオマンテがあるあたりも、南方のノルダイム人という船を操るのが得意な民族により幾度も侵略されているという話だ。

 しかし、いつまでも歴史的感慨に浸っていても、仕方がない。

 これから、この赤水丘に眠る邪神を解放する、という重要な使命があるのだ。

 とはいえ、どうすればいいのだろう。

 一同はちょっとした丘を登ったが、なるほど、地元の人々が気味悪がるのも理解できた。

 草がほとんど生えておらず、ときおり灌木らしいものがあるが、ひどく枝がねじくれている。

 なんとなくあまり長時間、いたくないような厭な感覚がした。

 たぶん、魔術師としての才能がモルグズにはあるので、yuridbem、すなわち魔術界の歪みのようなものを無意識に感じ取っているのだろう。

 他の仲間もみな、不快そうな顔をしている。

 丘の頂きには、白い花崗岩らしいものがあった。

 全体的に土地が黒っぽいグルディアの地では、これは少し異質だ。

 花崗岩は五つあり、それぞれになにかの文様が刻まれている。


 iriamisma zerzos ers.(イリアミスの聖印だ)


 重々しい声で、ラクレィスが言った。

 しばらく彼は岩を調べていたが、やがて首を振った。


 fikus zerosama tigazo.gow mig hice.(女神の力を感じる。だが非常に弱いな)


 uldce zeros...now vo erv yapc cu? ers ja:bima zeros.(古代の神……でも俺たちは安全なのか? 病の神なんだろ)


 mende era ned.(問題ない)


 ラクレィスが苦笑した。


 zemnariares ta ku:fa:res jabis ned.ers zerosima gardo dog.(ゼムナリア信者とクーファー信者は病にかからない。神々の加護のおかげだ)


 ぞっとした。

 あれほど破壊的な神なのに、なぜそんな余得を信者に与えるのか想像できてしまったからだ。

 たとえば疫病が流行したとする。

 もしそこにゼムナリアの僧侶がやってきて「入信すれば病にはならない」と伝えたら、その人間はどうするだろう。

 もちろん、ゼムナリアに入信することは恐ろしいことだ。

 しかし、死ぬのも恐ろしい。

 そう考えた者が死の女神に入信することは、ありうる。

 クーファーも同じことだ。

 ラクレィスによると、他にも病の女神であるエグゾーンというのも、やはり病気にはかからない耐性を信者に与えているという。

 だが、なぜ他の神々も似たような加護を信者に与えないのだろうか。

 そこで、また厭なことに気づいた。

 エグゾーンは病の女神そのものなのだから、病を操る力を持っているのだろう。

 そしてゼムナリアは死の力、クーファーは炎の力で、あるいは病原体を殺しているのではないだろうか。

 細菌類であれウィルスであれ、熱には弱いのだ。

 一方、ゼムナリアは死の力で病原体を殺しているのかもしれない。

 地球の学者はウィルスは「生物ではない」と見なしているらしいが、この世界ではゼムナリアはそんなことは考えていないだろう。

 そこで重要に点に気づいた。


 oy,vis......(おい、俺は……)


 dewdalg jabiya ned.alg kap jabiya ned.(半アルグは病まない。アルグも病まない)


 そんなことがあるのだろうか。

 だが、ラクレィスの話を聞いて、さすがに戦慄した。

 帝国期に一時期、あまりにアルグの害がひどいので、帝国に仕える魔術師たちがアルグを滅ぼすように命令されたことがあるのだという。

 そこで彼らが使った方法は「さまざまな病気を意図的にアルグに感染させる」というものだった。

 もちろんアルグに襲われた村人たちも感染するわけだが、基本的にアルグの襲撃をうけた村はほぼ全滅するので、特に問題とされなかったらしい。

 もし生き残りがいたとしても……人権などという概念のないこの世界だからこそ、ありえることだ。

 結果的に、一時的に大幅にアルグの数は減少した。

 魔術師たちは一頃、アルグは絶滅したと思い込んだほどだ。

 ところがしばらくして、また大量のアルグが出現したのだという。

 しかもそのアルグたちは今度はまったく病気にかからなかった。

 今でもこれは多くの魔術師たちの間で、謎とされているらしい。

 だが、モルグズにはなにが起きたかすぐに理解できた。

 どんな病原体であっても、特定の種を百パーセント殺すことは不可能なのだ。

 必ず、なんらかの形で抗体を持つ個体が存在する。

 魔術師たちにとっては謎だろうが、医学的に考えれば当然のことだ。

 結果的にアルグたちの間で淘汰が起こり、無数の病から生き延びたものたちが、新たに病にかからない種族として繁殖したのである。

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