4 cod ers va:nis!(これは正義だ!)
cod ers va:nis!(これは正義だ!)
グルディア訛りは聞こえてこない。
彼ら、あるいはその先祖はたぶん、イシュリナシアから逃げてこのグルディアと目と鼻の先の辺境にまで逃げ延びてきたのかもしれない。
ひょっとすると、彼らの先祖も罪人だった可能性すらある。
そして、人々は石を投げ始めた。
また過去の映像が脳裏をちらつく。
フラッシュバックというのは、こういうことを言うのだろうか。
たぶん、これは自分の殺意がゆらぎ、迷うたびに続くに違いない。
相手は死の女神なのだ。
彼女に百万の人間の魂を捧げるとまで大見得をきってみせたのである。
もしまた心が揺らげば新たな悲劇が起きる。
それでも、叫ばずにはいられなかった。
mato:r!(やめろっ)
驚いたように、村人が、傭兵が、そして山賊どもがこちらを見る。
誰もが驚いていた。
彼らからみれば、奇妙な一団に思えたことだろう。
小柄な女の子。
美しいグルディア女。
そして端正な顔立ちをした謎の男と……「いまだ顔に布を巻いていないので、牙をむきだしにした姿がはっきりとわかる、半アルグ」だ。
dewdalg era!(半アルグだっ!)
to eto welzadma ra:cus!(お前たちは山賊の仲間かっ!)
彼らに自分たちの正体を告げても、信じてくれるはずがない。
ゼムナリアの尼僧とクーファーの尼僧、そしてユリディン寺院に追われる闇魔術師に、死の女神と馬鹿げた約束を交わした、異世界から来た殺人鬼だ。
それに比べて、彼らはなんと真面目で、勤勉で、まっとうで、そして残酷なのだろう。
恐怖と怒りこそが、残酷さを生む。
そして自らが絶対的に正しいという信念が、人をいくらでも残忍に変える。
ふだんは野良仕事や家事にせいをだしている「善良な人々」は、威嚇するように叫ぶと、こちらにむかって石を投げ始めた。
そのとき、一人の少女の姿が視界に入ってきた。
薄汚れた服を着ているが、金髪と緑の瞳をした少女だ。
開拓村の人々が石を投げるなか、彼女も怒りに歯をむきだしにした。
ヴァルサほど可愛らしい少女ではないが、その顔はあの大兎を引き連れた少年と似ている。
おそらく血縁関係にあるのだろう。
vo:mxa! to kap ja:tu:r dustuzo!(ヴォーミャ! お前も石を投げろ!)
許せない、と思った。
vo:mxaは、ヴァルサの真の名前なのだ。
それをなぜこんな小汚い娘が、と思ったときに右肩に痛みが走った。
みなが石を投げているので、誰のものかはわからない。
だが、もうそんなことはどうでもいいのだ。
吐き気がする。
怒りのためだ。
モルグズは、かつて連続殺人鬼であり、いまは半アルグとしてこの世界に転生させられた男は、天に向かって咆哮を放った。
それからのことは、よく覚えてない。
一つだけ確かなのは、開拓民の村は徹底的に破壊されたということだ。
ゼムナリアの法力とクーファーの法力、そして強大な力を持つ闇魔術師が本気を出せば、一人の村をまるごと消滅させることなど、実に容易いことだ。
もちろん、モルグズも数え切れないほどの人間を殺した。
男も女も、老人も、そして子供さえ容赦なく手にかけた。
罪悪感はない。
ただ、なすべきとこをなしただけだ。
奇妙に心が静かだった。
人の焼ける匂いがする。
建物が燃える匂いもする。
死臭と炎の匂いが染みつき、むせそうなほどだ。
この地の人々はゼムナリアの死人の地獄に落とされることを恐れているが、すでにモルグズにとって、この世界そのものが立派な地獄なのである。
いままで、まだどこかで勘違いをしていた。
アースラは心底、愉しそうに燃える人々を見て笑っていた。
ラクレィスは、単なる作業をこなすように人々を殺していた。
内心、彼なら自分の気持ちを理解してくれるかもしれないと甘い期待を抱いていたが、間違っていた。
いや、やはり彼もかつて、すでに似たような経験をしていたのだろう。
そしてノーヴァルディアは……。
彼女はやはり人々を救うために殺しているのだろうか。
空の銀の月はずいぶんとやせ細り三日月になっている。
恋人たちの月。
その月光よりも、村が燃える赤々とした炎のほうがよほど強烈だ。
morguz,va vekeva.(モルグス、私は理解した)
淡々と、ノーヴァルデアは告げた。
va lakava ned fa tic tuz.(私はお前を愛さないに違いない)
faという未来相と、ticという確信の言葉がこれほど虚ろに聞こえるとはモルグズは思わなかった。
もちろん涙などとうの昔に枯れ果てている。
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