3 welzad hxufa foy toszo.(welzadが村を襲っているのかもしれない)

 北の空に立ち上る黒っぽい煙に最初に気づいたのはモルグズだった。

 やはり半アルグの視力は、かなりのもののようだ。

 おそらくは、例の開拓村だろうがなにか異変が起きたらしかった。


 welzad hxufa foy toszo.(welzadが村を襲っているのかもしれない)


 冷静にラクレィスが言った。


 ers poy.(きゃもね)


 アースラがどうでもいい、といった口調で言った。


 yem qol era ned gurudia.fa:deq sxumreys qap yas ned.(みゃだきょこはグルディアじゃない。辺境領主みょいない)


 welzadは、森welと悪zadを組み合わせた言葉で、訳するならば山賊、あたりが適当だろう。

 日本でいえば山に住む賊たちは、この平坦なセルナーダの地では森に隠れ潜むことからこういう言葉が出来たようだ。

 

 nadum woniv cu? mende era foy.(どうする? 面倒かもしれない)


 ラクレィスの言葉に、ノーヴァルデアが淡々と答えた。


 va alva tosule.va zemgav ci ned gurudianxe.(私は村へ行く。グルディアでは人を殺せない)

 

 すでに彼女はラクレィスに説得され、グルディア国内ではすぐに人を殺さないと約束した。

 イシュリナシアでも、人々が殺されることを恐れているのを理解していたからだろう。

 いくら人々に説明しても無駄、というラクレィスの言葉には渋々といった様子でいった。

 つまり、開拓村は彼女にとってグルディア入りの前に人を殺せる最後の好機、ということなる。

 あれからノーヴァルデアは、モルグズに近寄らなくなった。

 そのほうが、こちらとしても助かる。

 くだらない感情に惑わされず、自分のなすべきことを行える。

 開拓村で改めて、冷酷にやるべきことをすればいいのだ。

 だが、村に近づいてくるに連れて、ラクレィスが眉をひそめた。


 wamfig ers mxuln.(なにか妙だな)


 風に乗って家屋が焼ける匂いがするが、特に違和感は感じない。

 と思った瞬間、笑い声が聞こえてきた。

 野卑な男たちの声、ではない。

 若い女や、中年女たちの笑声だ。

 確かにこれは、妙だ。


 resama welzad ya: cu?(女の山賊がいるのか?)


 ラクレィスも首をかしげていた。


 resama yu:jenartis ya: era mig bazce gow.(女の傭兵はかなり珍しいとはいえいるが……)


 bekeba.ma+ba ci era panpon metspigzo.(わぎゃった。おみょじろいものがみりゃれるよ)


 どうやらアースラはなにか察しをつけたらしい。

 村が近づくに連れて、ようやくなにが起きているのか理解できた。

 何人もの女たちが、柵で囲まれた村のなかで楽しげに騒いでいる。

 もちろん女だけはなく、大人の男や子供たちもいた。

 確かに、山賊に襲われたことは間違いないようだ。

 しかし、その山賊たちを、なんと開拓民たちが逆に撃退してしまったらしい。


 kap vekeva.tosma reysi cosjogo yu:jenartiszo.ta yu:jenartis tudes welzadzo.(俺もわかった。村の連中は傭兵を雇ったんだ。そして傭兵が山賊を捕らえた)


 ここはグルディアでもなければ、どこかの辺境領主の領地でもない。

 つまり、村は自治されており、すべての裁きは村人たちが行うのだろう。

 みな浮かれているらしく、モルグズたちが村の端を囲っている柵を通って村内に入っても、誰一人として気づいた様子はなかった。

 この村にはどうやら中央に集会所や実りの神々の寺院があり、そこに人々はいま集まっているようだ。

 広場の中央には臨時のものか柱が立てられ、そこに何人もの汚らしい男たちが繋がれていた。

 金属製品は貴重なのか、主に縄で縛られている。

 あれが山賊たちだろう。

 装備もぼろぼろの革鎧や凹んだ兜といったものが多く、武装はかなり錆びついているようだ。

 数は四人ほどだが、みな顔のあちこちが腫れ上がっている。

 歯も欠け、ひどい顔だ。

 これはいわば、自業自得なのだろう。

 それなのに、体の芯のあたりから、火がついたようになった。

 この光景を、モルグスは知っている。

 これに恐ろしくよく似た光景を、かつて見たことがある。


 welzad!(山賊めっ!)


 gasfo:r gi:ce vom bo+siszo!(盗んだ俺たちの牛を返せっ)


 一人の幼い男の子が、山賊めがけて放尿を始めると、爆笑の渦に包まれた。

 ラクレィスが耳元で言った。


 fu:mo:r.(落ち着け)


 落ち着いている。

 背筋にちりちりと氷でもあてられたような気がする。

 心もすうっと冷えていた。

 この地では、ごく日常的にこうしたことは行われていであろうことは容易に推測がつく。

 とはいえ、いくらなんでもあまりにもタイミングが良すぎはしないだろうか。

 山賊どもがなぜこの時期に村を遅い、そして傭兵たちを村人たちが雇ったのか。

 もちろん、偶然ということもありうるがモルグズの考えは違った。

 すべて裏で絵図を描いている者がいる。

 そいつはモルグズの心まで読め、かつ山賊や村の住人、そしてあるいは傭兵たちにまで働きかけることができる相手だ。

 自分が動かずとも、人を使えば、可能なことである。

 とはいえ、人間業ではない。

 だがそれはそうだ。

 この醜悪な茶番を仕組んだのは「人間ではない」のだから。

 すべてが忌々しかった。

 なにもかもが腹立たしかった。

 この開拓村の人々の愚かしさにも吐き気がした。

 だが、さすがにそれは酷、というものかもしれない。

 予想はしていたことだが、開拓村の人々と、傭兵らしい、それなりに武装した男たちが、石を大量に用意していた。

 耳障りな笑い声がするたびに、あのときの情景が蘇る。

 誰もヴァルサを哀れんだりはしなかった。

 彼女はゼムナリア信者という「悪人」だからだ。

 今も誰も山賊たちを庇うものはいない。

 当然だ、村人たちはむしろ被害者であり、山賊は「悪人」だからだ。

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