13 yuridinma morguz?(ユリディンの牙?)
ノーヴァルデアが、珍しそうに岩に近づいていく。
had wob ers cu?(あれはなんだ?)
ers yuridfulas.ers selinma reysma uldce mxo:jo.(yuridfulasだ。精霊の人々の古い遺跡だ)
oy,ers jabs cu?(おい、危険なのか?)
ers ned foy jabs.(危険はないだろう)
そう言われても、アルグに襲撃を受けたとき、ノーヴァルデアは精霊に憑かれ、大変なことになったのだ。
不安になってノーヴァルデアをあわてて追いかけていった。
morguz! eto do:baldeama qads qedq!(モルグズ! あんた、ドーバルデアのてぃちおやみゅたいだっ!)
santu:r!(黙れっ!)
そう言いながらも、自分の心の変化に、モルグズ自身、少し驚いていた。
もし彼女になにかあったら、と考えるだけで怖くなる。
この感覚は、セルナーダの地にきてから初めて覚えたものだが、明らかにヴァルサに対するそれと似ている。
俺は一体、どうなっているのだ。
相手は恐るべき死の女神の尼僧であり、イシュリナスの騎士や僧侶でさえ勝てなかったほどの強大な法力を使うことができるのだ。
そんな相手に情が移った、としか思えない。
確かにこれはある種の父性本能だろう。
あるいは保護欲、とでもいうべきか。
自分も本格的に頭がおかしくなってきたのかもしれない。
相手は、その気になれば問答無用でこちらを即死させる力を持っているのに。
ヴァルサとの関係は、確かにどこかで恋愛感情に近いものが存在した。
はっきりと最期のとき彼女を愛していると自覚した。
あれからまだ一月半もすぎていない。
あるいはヴァルサの代用品として、ノーヴァルデアを見なしているのか?
自分の気持ちを整理しきれないまま、モルグズは巨石の表面に刻まれた文様らしきものを眺めているノーヴァルデアのもとに駆け寄った。
cod ers mig yurfe.cod zos era jis foy.(これはとても興味深い。その印は文字かもしれない)
よく見ると、玄武岩質の黒い巨岩の表面には、確かになにかの印がびっしりと刻まれていた。
明らかにセルナーダ文字とは異質だ。
だが、もしこれが文字だとすれば、あまりにも種類が多いので、アルファベットや音節文字のような表音文字ではなく、表語文字の可能性が高い。
つまり漢字のようなもの、ということだ。
いつのまにか、ラクレィスやアースラもじっと巨石を見つめていた。
lakreys,nafato cod ers jis tus cu?(ラクレィス、お前はこれを文字だと考えるか?)
日本語であれば「思うか」のほうが自然だが、セルナーダ語ではnafarは論理的な思考、aborは感覚的な思考できっちり使い分けるため、あえてnafarを使った。
vekeva ned.selinma reysima yuridzos foy.(わからない。精霊の人々の魔術印かもしれない)
やはり、いまの魔術師たちは古代の精霊の民のことはほとんど知らないのだろう。
あるいはそういう専門家もいるのかもしれないが、少なくともラクレィスはよくわからないようだった。
sxuls voy yuridin zersefma zeresa nxal gow.(ユリディン寺院の僧侶なら知っているかもしれないが)
そこで、今までユリディン寺院の存在を忘れていたことに気づいた。
確かユリディン寺院は、魔術師が暴れ、社会に害をなすことを恐れていたのではないだろうか。
だとすれば、ラクレィスも目をつけられている可能性はある。
rxobito yuridin zerosefzo cu?(お前はユリディン寺院が怖くないのか?)
ラクレィスが小さく肩をすくめた。
melrum erv rxo:bin.yuridinma morguz era u:tav zad.(もちろん怖いさ。ユリディンのmorguz は最悪だ)
意味がしばらくわからなかったが、モルグズはそもそも「牙」を意味する言葉だと思いだした。
いや、やはりそれでもおかしい。
yuridinma morguz?(ユリディンの牙?)
魔術と知識の神にはおよそ似つかわしくない、物騒な言葉だ。
ya:ya.yuridinma morguz na+golm zemga yuridreszo erv cedc za:ce yuridres.ers aln mig tigan yuridres.(ああ。ユリディンの牙は俺みたいな悪い魔術師を捜して殺す。みんなとても強い魔術師だ)
ユリディンの牙は、ヴァルサからも聞いたことはない。
あるいは彼女も知らなかったのかもしれなかった。
道を外れた魔術師は、専門の魔術師によって「消される」のだ。
そのとき、巨石に気をとられていたせいか、一人の少年が何匹もの大兎を引き連れたまま、こちらを凝視していることにようやく気づいた。
ノーヴァルデアがなにかつぶやいている。
制止しようとしたが、すでに手遅れだった。
いきなり、少年はその場で糸の切れた操り人形のように、正面から大地に突っ伏した。
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