12 gastis gxofogo foy nes konrxucsule.(ガスティスはネス伯爵に仕えていたらしい)

 ノーヴァルディアは落ち込んでいる。

 一見するとわからないかもしれないが、いつのまにかそこまで彼女の心の動きが理解出来ていることに自分でもモルグスは驚いていた。

 ウボド神のことなど、彼に話すべきではなかったのだろうか。


 gastis gxofogo foy nes konrxucsule.(ガスティスはネス伯爵に仕えていたらしい)


 ラクレィスの言葉に、モルグスは驚いた。

 だが、だとすれば彼のいろいろなことが腑に落ちる。

 貴族の供回りのものだとすれば、狩りなどにも付き従っていたかもしれない。

 それで獲物の血抜きやさばくのがうまく、さらには料理などの手伝いをしていた可能性もある。

 あるいはノーヴァルデアがああなった事情も、すべて知っていたのかもれしない。

 失敗した。

 ノーヴァルデアにまつわるさまざまな謎は、そのまま先代のネス伯の謎でもある。

 もし知っていれば、さりげなく話をガスティスから聞き出せたかもしれないのだ。

 なぜラクレィスはもっと早く言ってくれなかったのだ、と怒るのも野暮というものだろう。

 もともとゼムナリア信者同士は、どうも過去を語りたがらない傾向がある。


 chosiv sup tuz cu?(お前に伝えておくべきだったか?)


 mende era ned.(問題ない)


 ラクレィスはモルグスの言葉を聞いて、微笑した。


 eto van reys.(お前はいい奴だよ)


 五人から、四人に減った仲間で歩いているうちに……正確にはよほど気に入ったのかノーヴァルデアはずっとモルグスにおぶさっていたが……やがて、いきなり視界が開けた。

 前方には、どこか荒涼とした、一応は草が生えた土地が広がっている。

 ついにアスヴィン大森林を抜けたのだとは思ったが、いま一つ、実感はなかった。

 ただ、ここはもうイシュリナシアから遠い、辺境と呼ばれる地域なのだ。

 ますますヴァルサから離れた気がした。

 いきなり、両頬をノーヴァルデアに引っ張られる。


 wob?(なんだ)


 cod ye:ni era ned.(これには意味がない)


 そう言ったが、あるいはヴァルサのことを考えたのを察したのだろうか。

 この世界に来てから「女の直感」の怖さを学んだ気がする。

 前方には、黒っぽい土の上にやたらと葉の鋭い草が生えていた。

 ラクレィスがつぶやく。


 ers azemil.(アゼミルだ)


 azemil?(アゼミル?)


 azemil sxocuva selna:dama zagforanxe.(アゼミルはセルナーダの荒野に生える)


 ラクレィスの説明によると、このアゼミルという草はセルナーダの辺境に生える代表的なものなのだという。

 さまざまな環境に適応できるが、葉がきわめて鋭く、裸足などで歩けば切り傷を負うという。

 それでも、いままでの森の中の視界から開けたのは有難く感じられた。

 しかし、大地が黒いのはいままでのアスヴィンの森の豊かな腐葉土とはどこか違って感じられる。

 異世界に来てまで土の種類が気にするのは自分くらいのものかもしれない。

 ただ、かつての世界で「用済みのものを遺棄したとき」から、土やその地の樹木などに興味を抱くようになったのだ。

 あるいはこの土は玄武岩質のレグールのようなものかもしれない、とモルグズは思った。

 玄武岩は火成岩の一種だが、溶岩の状態では白っぽい花崗岩に対して粘りは少ない。

 かつて大規模な火山活動のあった土地の玄武岩が風化すると、地球のデカン高原などに代表されるレグールとなる。

 比較的、農業には向いており、水はけの良い土壌なので綿花栽培などには最適と言われている。

 ひょっとすると、グルディアあたりは太古の火山活動の影響でこの手の黒っぽい土が多いのかもしれない。


 hatoba ma+ba qod satzo teg.(きょの土をみだからわだしは安心したよ)


 いつものグルディア訛りでアースラが言った。

 イシュリナシアの土の色はよく覚えていないが、黒褐色のあの色は、上流に豊かな森林がある沖積平野の土の色だ。

 土が酸化している場合はもっと赤っぽくなるが、草の間から見える土はそういえばわずかに赤みがかっている。

 アースラは故郷が近づいてすっかり元気になったようだ。

 一方、ノーヴァルデアはどこか不安げだった。


 col era ned isxurinasia.(ここはイシュリナシアではない)


 アースラが派手に笑った。

 こうしてみると気の良い美人にしか見えないが、彼女は火炎と破壊の神、クーファーの尼僧なのだ。

 まあ、他の仲間も似たようなものではあるのだが。

 そうして一行は北東へと向かって荒野を歩いていった。

 こんな未開拓の土地があるというのが少し不思議な気もするが、それはつまりここが辺境だという証なのだろう。

 つまり、アスヴィンの森を出たとはいえ、まだ魔獣などに油断はできないということだ。

 しばらく歩いたが、人里らしいものはなく、また野営ということになった。

 まだ燻した鹿肉は残っているが、完全に燻製にできたわけではないので、明日までは保たないかもしれない。

 小川の畔で、一行は野営することにした。

 森では雨除けの遮蔽物を樹木の枝などを使って作ることができたが、これだけ開けた土地となると、それも無理だ。

 「誰かが雨を望んだ」のか夜中に一度、雨に降られたが、アースラの法力のおかげですぐに衣服を乾かすことが出来た。

 ただ、火炎と破壊の神の力を「こんなこと」に使っていいのかと少し疑問には思ったが、余計なことは言わなかった。

 翌日になってさらに北東に向かうと、奇妙なものが見えてきた。

 明らかに人工的に並べたとしか思えない、幾つもの巨石で出来た輪のようなものだ。

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